第23話 心を無にするのだ

 下から聞こえる雑音は無視して木々よりも高い位置を目指して昇って行く。そして目的の高さまで上がると崖から飛ぶように空に身を投げ出す。落下が始まるまでの数秒間に辺りを見回して探してた場所を見つけた。


 落下が始まると自分を囲むようにシールドを張ってから木々よりも少し高い位置を意識して、自分を基点に複数の地面に平行で広いシールドを展開する。


 上空のシールドは木々に覆い被さるように当たり、それが落下スピードを緩めた。木々の高さの違いから姿勢は右側が高く左側が低くなった。なので先に右側のシールドを解除して姿勢が安定するタイミングを見計らって残りのシールドも解除し着地すると再び走り出して大樹に並走する。


「何か良い案を思いついたんだな、流石だな友よ!」


 今日はホント手のひらくるっくるだなおい。手首千切れてくんねえかな。


「2時方向に開けた場所がある。そこに出たら下にストレージ」


 簡潔な説明だけだが大樹ならそれで伝わるだろう。そして進行方向を変えてその場所を目指した。


 開けた場所に出ると大樹はすぐにストレージを展開する。地面を走るように広がるストレージに遅れて俺たちもその中を走る。ストレージの高さは足首くらいで特に何かが触れる感覚は無いがそれが返って不気味に思えた。


 展開されたストレージの端から出ると大樹と一緒に身を翻して止まる。


「収納」


 大樹のその言葉と同時にストレージは消えて眼前に大きな穴が現れた。追いかけて来た一角兎は止まらずにその大穴へと次から次へとダイブしていった。中にはジャンプしてこちら側に渡ろうとしていた個体もいたがシールドに阻まれて墜落する。そして一分も経たないうちに全ての兎は落ちていった。


「止まろうとしなかったのは獣故の知能の低さからか、それとも本能や殺意からなのか」

「殺意だろ、おっかないモンスターだったし。追ってくるなら相手は美少女が良かったぜ」


 全く同感だ。穴は深くて落ちた一角兎に無事な個体は居なさそうだ。


「そういえばこんなに大きな穴を作っても大丈夫だったかな、開けた場所だから人が居て落ちたって事にはならなかったけど」

「帰るときに戻しとけば大丈夫だろ、たぶん」


 山の中じゃないから崖崩れとかは起きないと思いたい。


「死んだ兎をストレージに仕舞えないか試してくれ」


 大樹は一度大穴にストレージを展開して解除する。気持ち減った気がするな。


「死んでるのはストレージに仕舞えるな」

「ならとりあえず二匹だけ血抜きするか。切り口作って川の中に入れとけば良いのか?」

「川なら多分向こうにあるぜ」


 離れる前に大穴にシールドで三重の蓋を作る。元気な個体は居なさそうなので念のための物だがゾンビ映画のように他の個体を足場に登って来られても嫌だからな。


 大樹に案内されて歩くと確かに近場に川があった。一角兎を一匹受け取りナイフを手にする。もう一匹の方の血抜きを頼むと大樹は露骨に嫌そうな顔をしたがそれはこっちも同じだし、何よりこの後には生きてる一角兎にとどめを刺していかなければならないのだ。


 手を合わせてから一角兎の首に切り口を作り血が流れるのを確認すると、川の中に入れて水と血だけ通り抜ける固定シールドで囲む。他のモンスターとかに奪われないようにシールドは二重にするか。


 戻ると大穴を確認する。特に変化は無かったので二人分の作業台と椅子、それにまな板をシールドで作る。まな板はナイフで作業台が壊れないようにするためだ。もし台の一部がナイフで破壊されると台そのものが失くなってしまうからな。


「おっと忘れてた。大樹、箱型のシールド作るからそこにストレージを展開して抜いた血を収納してってくれ」

「収納した血はどうする?」

「そうだな、量が凄いことになりそうだしそれを放置して何かあっても困るから一緒にギルドに処分してもらうか」


 絶命した一角兎を大樹から受け取りシールドの台に乗せて作業に取りかかる。抵抗する力は弱くさっきと同じ様に首に切り口を作る。普段から肉を食べてるので変な綺麗事を言うつもりはない。だけど以前魚を捌いたときと違う感触が僅かに罪悪感を生む。


 血抜きされてない個体がストレージから無くなるとまた大穴から絶命した個体を回収してもらうがそれも無くなったら大穴の蓋を解除して念のため一番弱ってる個体を基点に棒状のシールドを目の前に展開して釣り上げるように引っ張り手元に持ってくる。そして脳に魔力操作スキルで魔力を打ち込み止めを刺してから地面に並べていく。ある程度の数になれば後はまた血抜き作業の繰り返しだ。


 精神的につらいものがあったが気を紛らわせるように好きな漫画のシーンを思い出して作業を続けた。

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