第22話 友だちは選んだ方がいいよ
前方に進路を塞ぐように横に倒れた木が見える。左斜め前を走る大樹は少しスピードを上げて倒木に右手を乗せた。そしてその手を軸に左側に身体を軽く浮かせて倒木を飛び越えた。
それを見て俺もジャンプして飛び越えようとしたが直前で大樹の進路上に胸くらいの高さの岩があるのが目に入った。倒木に気を取られ気づかず、そのさらに左側にも倒木があったので大樹は進路を右に変えた。
このまま飛び越えようとすると大樹とぶつかるので倒木にジャンプして乗って高く跳び、固定シールドを右側に出してそれを足場に左斜め前に進路を変えて大樹の左側に着地する。一角兎は倒木にぶつかることなく追いかけて来てる。
「なぁ友よ。実はあの兎たちは何かに追われててたまたま進行方向が同じだけって事はないだろうか」
「
つまり追い付かれてない、追い抜かれてない時点で一角兎は逃げているのではなく追って来ていると判る。
「なにか手はないのか友よ。このまま街に連れ帰るわけにもいかないし他の冒険者パーティに遭遇して巻き込んだら最悪だろ」
MMORPGでは多くのモンスターのターゲットをとってそれらを引き連れて移動し、別のプレイヤーに
この速度を維持できるのはMPを使ってるからだ。もしMPが尽きればすぐに限界が来るだろう。なのでただ逃げていてもじり貧だ。
「仕方ない、最終手段だ」
「初手から最終って手持ちのカード少なすぎないか?」
「文句があるなら自分で考えてくんない?」
「ピンチのときでも逆転の手を思いつくのはさすがだな友よ!!」
手のひらくるっくるだなおい。まぁいいや。
「というわけで我が友よ、突っ込め」
親指で後ろの一角兎の群れを指すと大樹は真顔になり一度後ろを振り返りまたこっちを見てくる。そして人差し指を兎に向けながら目で訴えてきた。
『あ・れ・に・突・っ・込・め・と?』
俺は無言で頷き肯定してやった。
「いや無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理。あんなもん攻撃しても防御に回っても
「忘れたのか我が友よ。お前は何だ? 勇者だ! そして勇者と言えば覚醒イベントだろうが。だから今ここでチートを手に入れてこい!!」
「失敗したら死ぬじゃん! もっと安全に強くなりたいんだが!?」
「そんなんで隠された力が覚醒するか! それはピンチや絶望を乗り越えて起こるもんだろ! ぶっちゃけると俺は
「だったら安心しろ。お前が死んでも俺は全然悲しくなんてないし絶望もしない!」
酷な我が
「
通常運転だなヨシッ。てかそれ、命の危機に本能が子孫を残そうとしてないか?
大樹は正気に戻ると何か良い手はないかと真面目に考え始めた。
「そうだ! シールドスキルを周りに張って過ぎていくのを待てばいいんじゃねえか!?」
「却下。兎が過ぎ去らず周りを囲まれたらどうすんだ。MPが切れると同時に襲われるだろ」
それにシールドの強度実験はしていないのでシールドが破られる可能性もある。
「だったら上空に退避してやり過ごすせば良いんじゃね!?」
「それも止めた方がいいかな。昨日やったときに思ったけど普通に危ないしどれだけ上がれば兎が見失ってくれるかわからないだろ。それに上空で待機中に飛行系モンスターに襲われたら逃げ場がないからな」
飛んでるモンスター相手にこちらの攻撃手段は解体用のナイフか俺の魔力操作だけなのだ。そんな状況ではまともに戦うことすらできない。自分一人だけ逃げるのなら何とかできそうだけど大樹も一緒にとなると難しい。
「あ、そうだ!」
何か閃いた直後に大樹の背後から闇が広がる。なるほど、これはギルマス戦で見せたストレージを使った目隠しか。絵面は広がる闇から逃げる俺たちだが実際は大樹が闇を引き連れているわけだが。
「これで少しは減ったか?」
大樹がストレージを解除すると変わらず追いかけてくる一角兎たちの姿があった。まぁでも気持ち減ったかも?
「何あれ、ケツをぶっ刺されながらも刺してるやつと息を合わせて追っかけて来てる二匹がいるんだが!?」
「それより手前のを見てみろ。方向転換したら隣のやつに首を刺されました、って感じのがいる。しかも止まらないから刺されたまま追いかけて来てる」
この兎たちは【止まるんじゃねえぞ】とリーダーにでも言われたのかな?
「
それな。自分と同じ体重のものを角に刺しててよく首が無事だよな。しかもスピード落ちてないとか殺る気満々だし。
俺は固定のシールドで階段を作り上空に向けて駆け上がって行く。ただし一人用で一角兎が昇って来ないようにすぐに消したので大樹は変わらず地面の上を走っている。
「俺を囮に一人だけ逃げるつもりか!? 悪魔! 人でなし! 死んだら化けて出てやるからなーーー!!」
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