第20話 武具創造

 不思議の国にではなく、あの世に旅立ったアリス(スライム)に手を合わせ近くに落ちていた魔石っぽいものをアイテムボックスにしまう。結局スライムの操作には集中が必要で、それが隙になるから自分で戦った方が良いという結論になった。


 その場から離れる前にゴブリンが行った方向を視る。念のため回り込んでいないかの確認だ。


 ゴブリンは真っ直ぐ進んでいたので俺たちに気づいてはいないみたいだ。と、そのさらに奥で何か動いていたので視力を上げると小さく見え辛いが冒険者のパーティが他のゴブリンと戦闘していた。それが片付いたかと思ったら丁度視界に入ったさっきのゴブリンに炎の球が飛んできて当たった。


「うっ、炎上系ゴブリン(物理)になった」

「さすが異世界。危険がいっぱいだなおい」


 冒険者たちの居る方向とは別の方に歩き出す。距離を取るのはスキルを実験しているところを見られないようにするためだ。


 三〇分ほど歩いて十分に距離を取り、軽く周りを見回して人が居ないことを確認する。


「そういえば朝飯はまだ食ってなかったな。腹が減ってきた」

「そうだな。次の実験が終わったらギルドを出る前に買った飯を食うか」


 俺はシールドスキルで二人分の簡素な椅子を作りその内の一つに腰を掛けた。


「それで、次は何の実験をするんだ?」

「我が友にとってお待ちかねの武具創造スキルの実験をするか」


 やっとか、と楽しげに笑みを浮かべる大樹。


「名称的に武器を作るスキルか? 日本刀とかも作れそうかな」

「『武具』創造だから防具も作れるんじゃないか?」


 それもそうか、と大樹は何を作るか思案し始める。おそらくは細かいイメージが必要だと伝えておく。大樹が悩んでる間は俺が周囲の警戒をする。手の空いてる方がやると決めてあった。そして十分くらいが過ぎた。


「よし決めた。和風の衣装と仮面を作って俺の武士道ブシドーをおせしよう。これからその格好のときはミスターと呼んでくれ」

「ああ、あのキャラの衣装か。てっきり聖剣でも作るものだと思ってたが随分と渋い選択だな」


 まぁ思考が暴力寄りじゃないのは良いことだ。


 大樹は一度深呼吸して目を瞑ると『武具創造』と口にした。すると頭部や胴体など身体が光だす。最初に変化があったのは顔周りだ。まるで光が物質化でもするかのように仮面が出来ていく。それらはゆっくりとした早さだがファンタジー感が溢れ心が踊った。


 仮面の部分が出来上がり光の粒子が無くなると今度は右肩の端から物質化していく。そして衣装のベスト部分の右肩辺りが出来たくらいで大樹を纏っていた光は霧散し衣装も光と化す。そして大樹の身体が横に倒れた。


 俺は咄嗟にシールドを増やして身体を支えると二人を入れても余裕がある大きいシールドを周りに展開する。攻撃を受けた可能性を考えたからだ。


 安全を確保したらすぐに大樹に鑑定を使う。名前の下にある項目に視線が向いた。



 HP:99(%)

 MP:0(%)



「MPが尽きてる!? てことは死んだのか!?」


 いや待て落ち着け。MPの枯渇で死ぬのは絶対じゃない、作品によりけりだ。それにHPは0じゃないから少なくとも生きているし呼吸もある。懸念があるとすれば精神的に死んでいないかという事だが…。MPは1%になってるから回復はしてるな。ってことはそれも無いだろう。なら起きるまでは放置するしかないか。


 念のため周りに張ったシールドはそのままにしておく。現状自分には待つことしかできないのでシールドでテーブルを作り先に朝飯をいただく。元の世界のレーションは最近の物は味が改善されたとか聞いた気がするが、この世界の文明レベルでは日持ちさせるためかお世辞にも美味しいとは言えない物だった。


 食べながら武具創造について考察をしてると大樹の反応が有った。10分くらい経ったかな?


「うーん、あれ、俺は…」

「起きたか」

「ここは何処だ? それに俺は…俺は誰だ?」

「冗談が言えるなら大丈夫か。最悪死ぬところだったけどな」

「えっ? 俺ってそんなに危ない状態だったの?」


 ネット小説あるあるのMPが尽きるリスクについて教えると大樹の顔が青ざめる。


「そんな危ない情報が有るなら先に教えといてくれよ」

「失念してたのは悪いと思ってるが、勇者のスキルでそんな事になるとは思わないって」


 勇者はチートのイメージがあるから残りのMPが9割を超えてるのに一つのスキルの使用で足りなくなるとは思わなかった。それにネット小説やゲームだと普通はMPが足りないときは発動しないしな。


 とりあえず朝飯を渡し食べるように促す。鑑定してみるとMPは7%まで回復してた。


 大樹が朝食を食べ終わると話を再開する。


「しっかし武具創造って使えねースキルだな」


 ぐはっ、と大樹は机に突っ伏して落ち込む。もちろん大樹自身が使えないとは思ってない。しかし変に気に病まれても困るので冗談めかして言ったのだ。そしてそれは大樹もわかってるのでオーバーリアクションをしている。


「死体蹴りは酷くない?」

「まぁお詫びに寝てる間にした考察を教えるよ」


 俺はあれこれ考えた内容を述べていく。


「これは言うまでもないがコスパは最悪で実戦で使うと自滅するレベルだな。次に創造したものについてだが倒れると同時に光となって消えた事から作ってるときにMPが尽きて創造が不完全だと形を保てず消えるんだと思う」

「なるほど。あれ、でも仮面は出来てたよな?」

「推測だけど、『仮面も衣装も全部で一つ』と思って作ってたのが理由なんじゃないかと思ったが。どうだ?」

「あー確かにそんな認識だったかも…」

「それを調べるためにもこれから寝る前にMPに余裕があればナイフを作っていくのはどうだろうか。寝る前ならもしMPが尽きて寝てしまっても外で作るよりは安全だしな」


 俺はギルドの売店で購入した解体用のナイフを手にしながら言う。大樹も一つ持っている。


「もし作れたら消える条件を調べるのも必要だな。時間経過か破損かもしくは別の理由か」


 いざ使おうとしたときに消えて無くなると最悪命取りになるかもだし。


「あと作れる本数が増えたらMPの上限が上がってるかもしれないのを知れるのも良いしな」


 これは製作コストが下がってる可能性もあるがストレージや鑑定の消費MPが少なそうなのでどっちでもあまり変わらない気がする。


「それなら色々とわかりそうで後で役に立つかもな」


 とりあえずはそんなところか。

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