第19話 スライムの少女アリス

 再び探し始めてから程なくしてスライムっぽいものを見つけたので、魔力操作で視力を上げて鑑定する。うん、間違いないな。


「ほら居たぞ。あそこだ」

「ん? どこだ? よく見えん」

「ほら、倒れた木の上にいるだろ。透明でちょっと判り辛いが」

「えっあれか? 全然丸くないんだが…うげっ、鑑定したら本当にスライムって出た」


 指を差したその先に居たのは透明でミミズのように長くしかしサイズは比べるべくもない粘度のありそうな生物だった。可愛らしさの欠片もないが本来モンスターに求める要素じゃないか。


「それでどうやって捕まえんの? それっぽいスキルは持って無いよな?」

「魔力操作を使ってみようと思ってる。昨日の実験ではお前も魔力操作っぽいことしてただろ?」

「してたな。でも色々と予想外だったけどな」


 昨日した実験の中には大樹にも魔力操作ができないか試すというものがあった。ネット小説の主人公はお手軽にスキルを覚えることが多々あるので勇者の大樹もそうなんじゃないかと思ったからだ。


 なので俺が使ってた魔力の流れを掴んで視力強化などのやり方を説明した。結果、頭部に意識的に魔力を集めると視力や動体視力が上がったみたいだ。


 次に足に魔力を集めた。その結果、驚異的に足が速く。それは俺も同じで足が軽く感じはしたので自己タイムが短くなってそうだがデタラメなものではなかった。


 他にもファンタジー拳法も試してもらったが小石を割ったりはできなかった。足に魔力を集めた実験からも腕に魔力を集めても漫画みたいな威力にならないと判断して思いっきり岩を殴って試すようなことはしなかった。骨折するかもしれないからな。


 そして一通り終わった後に鑑定で調べると大樹のスキル欄に魔力操作は


 ただ帰るときに予想外の効果に気づいた。


 門が閉まる前に帰らないと外で野宿になるのではと思い早めに切り上げたのだが、街の外壁が見える頃には行列ができていた。なのでなるべく早く並ぼうと最後尾に走ったのだが気休めに魔力を使ったら疲れがほとんどなく、それは大樹も同じだったのだ。つまりスタミナ方面での効果があることが解った。


 それらの事から一つの仮説を立てた。


 魔力操作のスキルがない大樹でも体内で魔力を集めれば体力の強化ができた。しかし大樹は身体の外に魔力を出すことはできなかった。なので魔力操作は魔力を身体の外に出すためのスキルなのではないか? と。


 身体の外に出して維持するイメージを浮かべてみたが、色があったり光が屈折したりといった視覚的に判ったり何か物を掴めたりはしなかったので本当に身体の外に集まっているかが分からなかった。


 集まっていても端から霧散してそうな気がするしそもそも集まっているのは気のせいかもしれない。だけど身体の外に打ち出すことができているのは間違いない。あれこれ悩むことになったが幸か不幸か街に入るための待ち時間はたくさんあった。そしてその時に思いついたのがスライムで試すことだった。


 スライムは不定形のモンスターだ。その身体は液体で構成されていてその身体の維持には魔力が関係しているのだろうと推測した。なので俺の魔力で満たせば操れないかと考えたのだ。


 地面に移動したスライムの前にシールドを展開し反撃が来たらかわせるよう三〇センチは離して手をかざす。そして魔力を手の先から流し出すして維持するようにイメージする。


 スライムが距離を取ろうとしたので他の三方向にもシールドを展開して囲む。五分くらい経ったときに細長く形作っていた身体が丸くなる。イメージしてたものに変わったのでたぶん成功だ。


「成功したっぽい」

「ホントか? なら何かわかりやすい形にしてみれくれ」


 俺はとある少女をイメージしながらスライムの形を変えていく。


「友よ、まるで絵本から飛び出してきた不思議の国に迷い込みそうな女の子に見えるな。いや、それは別にいいとして何で身体がなんだ?」

「それは俺のイメージが二次元だったからだ!」


 昔読んだ絵本のキャラクターをイメージしたのだから二次元なのは当然で文字通り絵本から飛び出してきたみたいになってる。もちろん命名はアリスだ。


「え、そこ威張るところなの? どうしよう、攻撃力がぐーんと上がってないのに混乱してる俺が居るぞ?」


 人を害悪みたいに言うな。


「ん? 何か近づいて来るぞ。あれは…ゴブリンかな?」


 気配に気づいた大樹がそちらを凝視して注意を促してくる。まずい、ゴブリンはまだグレーゾーンだから殺すのはダメだ。しかし離れ過ぎると形を保てなくなりそうだ。なので人差し指だけを伸ばしそこから糸を出すかのように魔力を細く出して繋げるようにイメージ、って大樹じぶんの人差し指をくっ付けてE○ごっこをするんじゃないよ!


 大樹の人差し指を躱して魔力操作に集中しながら近くの茂みに隠れる。ほどなくしてゴブリンが現れた。


「【行けアリス、キミに決めた!】」

「か弱い少女をモンスターの前に突き出す鬼畜の図」


 やかましいわ!!


 そのゴブリンは立っていたスライム(アリス)を不思議そうに見ている。よし攻撃だ、殺すのはダメだが追い払うのは大丈夫だ。涙目にしてやれ! そのとき名言が俺の口から飛び出すぜ!!


 しかし操作が上手くいかずスライムの動きは緩慢だ。そっぽをむいた、ってなってないかこれ。


「グギッ グググ グギャッ」


 少し様子見してたゴブリンが持っていた木の棒を無造作に振ると核に当たったのだろう、スライムの身体を構成していた液体が崩れ落ちた。


「グギャッ グギャッ」


 下卑げびた笑みを浮かべてゴブリンは来た道を戻って行く。それを見てた俺は膝から崩れ落ちた。


 アリスーーーーーーーーーっ!!


 俺の声無き叫びが世界を駆けていった。

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