第16話 英雄
マーガレットさんにヤムゴ草を提出して代金が来るのを待つ間に色々と見て回ると売店を見つけた。そこには様々な物が売られていた。
ポーションというファンタジーの定番アイテムが目についた。異世界の物はやっぱり不思議パワーで傷を瞬時に治すのだろう。ギルマスが飲んでたやつっぽいし。
他にもロープや逃走用の煙玉なんてものもあり懐に余裕ができたら買っておきたいところだ。あとは火打石もあったのでそれもそのうち購入しないといけないだろう。火は色々と便利だからな。
ふと、昼は人が
と、こちらに気づいた一人の冒険者が近づいて来る。
「お前たち見ない顔だな。さては今日冒険者になった二人ってのはお前たちの事だな?」
これ知ってる。先輩冒険者による洗練という名の新人いびり。テンプレキター!
「付いてこい。俺がお前らに冒険者ってやつを教えてやる」
「お待たせしました。こちらがヤムゴ草の代金に───ってレクスさん、彼らを連れて行かないでください」
肩をガッチリ組まれ大樹と二人連れてかれる。そしてそのまま建物の外───あれ、そっちは飲食スペースですよ? まさか今飲み食いしてる冒険者が総出で襲いかかってくるのか?
「聞け、お前ら! この二人は今日新しく冒険者になった新人だ。お前らもよく知ってると思うがこいつらにはこれから多くの困難が待っている」
談笑してた冒険者たちが話をやめて一斉にこっちに注目する。
「この出会いは一期一会で終わるかもしれねえが場合によっちゃあ背中を預け合うかもしれねえ大事な俺らの仲間だ! そんな二人の門出を仲間として祝ってやるぞ! 飲め! 食え! 騒げ! 今日は俺の奢りだ!!!」
『うおおおおおおおおおっ』とそこで聞き入っていた冒険者たちが雄叫びを上げる。「流石レクス、太っ腹だ」とか「カリマの街の英雄にも乾杯だ!」とか色々な怒号が飛び交いバカ騒ぎが始まった。
鑑定で調べたら誰かが呼んでたように『称号:カリマの街の英雄』が有るが怪しい称号は特に無かった。つまりただの良い人だった。
誰だよ新人イビリとか思ってたのは。俺ですごめんなさい。
「いいかボウズども、冒険者はまず筋肉を鍛えろ。筋肉さえあれば大抵のことはなんとかなる。この街
「あ? そいつは聞き捨てならねえなダルサス。この街で一番は俺になっただろ。なんなら今ここでもう一度やるか?」
「Dランクのヒヨッコがまぐれの勝ちで調子に乗ったか? 良いだろう、相手してやるよ」
周りの冒険者たちがテーブルの食べ物を別のテーブルに移した後に腕相撲が始まった。周りの人間は囃し立てて盛り上がる。勝敗を賭にしてる者までいた。結果はCランクのダルサスさんの勝ちだった。
「なんだ、全然飲んでねえじゃねえか新人。ほらもっと飲めよ。次に腹いっぱい食えるのはいつか分からないんだぞ」
先輩冒険者の一人が木のジョッキを俺の口に押し付けて無理やり飲ませようとしてくる。たぶん少なからずアルコールが入ってるので断ろうかと思ったがアルコールの匂いがしなかったので大樹を一瞥すると親指を立てていた。ストレージを使って中身を入れ替えたのだろう。量はそんなになかったのでそれを飲んで俺たちの座る席に配膳されたジョッキを代わりに進める。英雄さんが注文してくれたやつだ。
それからはランクに合わせたお薦めの宿がどこか冒険者たちが料金や飯の旨さで議論し始めたり、失敗しにくい依頼がどんなので、それをいくつ達成したらFに上がれるかの情報を先輩冒険者たちが教えてくれる。そして時間が経つにつれてどこの宿に泊まってみたいとか美味しいと貴族の間で評判になってるらしいがお値段も高いと噂の料理店に入ってみたいだとか、最近王都で冒険者の活動に規制が入ったため冒険者たちが減ってこの街にも流れて来るんじゃないかなどの噂話などに変わっていった。
「相変わらずこんな所で
バカ騒ぎをしてる所に誰かが来た。装備から冒険者なのだろう。レクスさんへの言葉に刺がある。
「
「…この後予約してある店でパーティメンバーと合流するのでお断りします」
「じゃあまた今度機会があれば奢るよ」
「そんな事より依頼をちゃんと受けたらどうですか。今の貴方は以前と比べて見る影もないですよ」
そう言い残して冒険者の那由多は去っていった。
「空気を悪くしてすまんな。あいつは悪いやつじゃないから誤解しないでやってくれ」
わかってますよ、とレクスさんに返事する。
那由多って人を鑑定したら称号に『英雄の背中を追いし者』とあった。男のツンデレ誰得だよ………
その後は酔いが回ったのかさらにバカ騒ぎが酷くなっていく。異世界という初めての環境に思ったよりも疲れが溜まっていたのかいつの間にか俺の瞼は落ちていた。
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