第17話 英雄の過去と現在

 夜がける。


 バカ騒ぎをしていた冒険者たちは酔い潰れて死屍累々といった様になっていた。冒険者ギルドは王都や領都といった大きな街では緊急時に備えて閉まることはない。街中に居るCランク以上の冒険者はギルドに常に居場所を把握されている。それだけ貴重な戦力なのだ。


 新人二人も机に突っ伏して眠っている。その横でジョッキの中のブドウ酒をあおる。


「私もご相伴しょうばんにあずかって良いですか? レクスさん」

「構わないが仕事はいいのか?」


 今日はもう上がりです、と受付嬢のマーガレットが答える。冒険者の食事の誘いをことごとく袖にする彼女にしては珍しい。


「皆酔い潰れちゃいましたね。明日支部長が来たらカンカンになりますね」

「だろうな。奢っておいてなんだがそこは自己責任だ」


 悪戯っぽく言うマーガレットに同じように返す。新人二人はそんなに飲んでなかったから朝が弱くなければ支部長の雷は回避できるだろう。


「新人の彼らですが実は登録時に試験を受けて合格しています」

「そうなのか? でもGランクって聞いたが…」

「試験は必須じゃないと知らなかったみたいです。あと彼らなりに何か考えがあるんだと思います」


 生活費などの金銭的な問題があるが地道に依頼をこなすのは悪いことではない。それを理解しているのか。


「ただ、まだ危険な状況を体験していないからか不真面目なところがあるので私個人としては少し心配です。どこかに単独で活動している熟練冒険者が居て少しだけでも手解てほどきしてあげてもらえれば安心するんですけどね」

「いや、俺はその…」

「ふふっ、冗談です。でもギルドとしてはレクスさんに精力的に活動してほしいと思ってます。以前那由多さんのパーティに誘われた話を聞きましたよ」

「すまないな、俺にはやるべき事があるんだ」

「差し出口でしたね。ごめんなさい」

「いや、色々と考えてみることにするよ」


 マーガレットは遅めの夜食を取り終わると帰宅する。送ろうかと訊いたが近いので大丈夫ですと一人で帰っていった。


 以前組んでいたパーティでは俺たちはあと少しでAランクに上がれるところに居た。大盾使いのショーンと姉妹エルフのフローラとルキナに俺を加えた四人パーティで皆Bランクの冒険者だった。どんな難題の依頼も熟して街の顔役にまでなった。


 しかし五年前、竜が現れたと情報を得た領主から指名で調査の依頼が来た。討伐ではなく真偽を調査するためのものだった。


 もしその情報が本当だったら大きな街を一夜にして滅ぼす竜という種族戦うことになるだけではなく、種族問わず魔物が縄張りから逃げ出す暴走行動を起こす可能性もあるため非常に重要な依頼だった。


 真偽を確かめることなので誤報の可能性もあったが油断せず調査をしていた。しかし古代遺跡の眠る洞窟内での何者かの襲撃、そして竜との遭遇。


 逃走が難しいと判断し戦闘になった。逃げるための隙を作ろうと奮闘したが、不慮の出来事によりパーティメンバーとはバラバラになり気がつけば一人になってた俺はボロボロになりながらもこの街に戻って来た。


 だが他のメンバーは戻らなかった。竜は魔物の生息圏に飛んでいったのが目撃されていた。街では暴走行動を警戒したが杞憂終わりそして五年の月日が流れた。


 俺は今でも仲間が生きていると信じて依頼は必要な分だけ受けて鍛練を続け情報屋から仲間の居場所の手掛かりとなる情報が入るのを待っている状態だ。


 ギルドの支部長には現実を受け入れるべきだと言われたこともあるがそれでも待ち続けた。でも待つのはもう終わりにするべきなのかもしれない。


 たった一つだけある手掛かりについて情報屋に探らせてるが何の進展もない。探しに行くのなら国を転々とすることになるし行き違う懸念があったがそろそろ動くときが来たのかもな。


 俺は結論をもう少し先延ばしにするようにブドウ酒を口にするのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る