第11話 VSゴリラ

 正面に構える大樹に「いつでも来い!」と上段に構える試験官言う。5秒ほどの膠着状態から大樹は右足を引いて顔は正面を向いたまま身体を右側に向けて木剣の剣先を後方の下に置く。剣の長さを視認出来ないようにする脇構えだ。


 その構えと同時に大樹は相手に向かって走り出す。そして動く気配の無い相手の間合いの一歩外から木剣を振る。届かない─と相手の心理に油断を誘い持っていた木剣を手放して投げつけた。


「ぐっ!」と一瞬の隙を突かれた試験官が木剣を弾いた時には大樹は相手の右足を両手で取って右肩で相手の胴体を押しながら重心を崩しにかかる。それは双手刈もろてがりと呼ばれる柔道の反則技の一つ。


 試験官もすぐさま反撃するが体重の乗ってない打撃は来るとわかっていれば耐えられる。そして相手は後ろにあったに背中を打ち付けた。ギルドに来る前に鑑定で得た情報を色々と試していたときに座っていたあの石だ。大樹はあのときの石をストレージに入れて持ってきていた。


 混乱とダメージで生まれた隙に大樹は立ち上がるとストレージで木剣を手に戻して打ち下ろす。


「降参するならお早めに!」


 まるで悪役のようなセリフを吐いて試験官に防御されるのもお構い無しに何度も打ち下ろしている。絵面だけなら一方的に攻撃してる悪者だ。


 攻撃は大振りになりすぎて隙にならないように早さを重視している。なので試験官も防げているがおそらくはそれも承知で、相手が足で反撃してくるのを誘っていて足を出してきたらそれを打ち抜くつもりなのだろう。だが大樹の木剣を試験官は腕の力だけで弾き返し大樹の木剣は手を離れ飛んでいった。


「ゴリラかよ!?」


 大樹は距離を取りストレージを使い木剣を回収する。試験官も構えて仕切り直しとなる。


 鑑定で試験官を調べてみる。


───

 名前:ゴリアム


 HP:99%

 MP:99%


 スキル:剛力/剛体/斬術Ⅵ


 称号:カリマの冒険者ギルドのギルドマスター

───


 名前までゴリラっぽいな。そのせいかスキルまでゴリラっぽい。実はギルドマスターでしたってのはネット小説あるあるだからそんなに驚かないけど。


「空間収納か。随分と面白い使い方をするじゃないか。それに体術も変わっている」


 うーん、個人的には隠しといて欲しかったが仕方ないか。


「気に入ってくれたのならもう一度見せてやるよ!」


 大樹がギルマスの頭上に大石を出して落とす。あのバカ迂闊うかつすぎだ。


「ネタが割れていれば対応は簡単だぞ!!」


 ギルマスは落ちてきた大石をバレーボールのスパイクのように大樹に向かって叩きつける。剛力だけじゃなく剛体のスキルも持っているからこその無茶だな。


 意表を突かれながらも大樹は横に跳び退いて大石を避けた。


「ゴリラよりも危ないな!!」


 すぐさま立ち上がる大樹だが現状ギルマスを倒す手はないように思える。ワンチャン有るとすればスキルの武具創造だが、どのようなリスクが有るのか分からないスキルをここで使うほど大樹は馬鹿じゃないから使わないだろうな。殺す可能性も有るし。さて、どうする?


 少し睨み合ったあとで大樹が動く。


 脇構えから距離が近くなると上段に構え振り下ろす形を予想させる。そして間合いに入る一瞬前に大樹はギルマスの目元にストレージを展開した。


 あれは収納するためじゃなく目隠しが目的か!


 大樹の木剣は軌道を変え上段に構えるギルマスの左脇腹を狙う。しかしギルマスは躊躇なくそれに向かって自身の持つ木剣を振り下ろした。


「なっ!?」

「なかなか上手いやり方だが俺には効かんぞ!」


 大樹の手から木剣が落ちると同時にストレージが消える。そしてギルマスが右拳を溜めるのを見て咄嗟に後方へ飛び退こうとするが相手の間合いからは逃れられない。悪あがきとしてできたのはもう一つの大石を盾にすることだけだった。


「やり過ぎですよマスター!!」


 冗談のようにぶっ飛んだのを見て受付嬢は心配しながら大樹の元へ駆けつける。その姿を見て俺は涙し感謝した。確信を持てたからだ。


 あの人はウケツケジョーじゃなかった!!


 今後の憂いが無くなって安心した。大樹の心配はしていない。必要ないからな。


「痛ってぇな! 頭ハゲてんのにヒグマのような馬鹿力だなおい!!」


 漫画みたいにぶっ飛んだ大樹だったかすぐに起き上がった。ピンピンしているのは日頃の成果だな。何も不思議パワーに目覚める特訓しかしてなかったわけじゃないのだ。ただ少し熱くなりすぎだ。


「お? あれを喰らって起き上がれるのか。お前はもういいぞ、合格だ」

「あ? 何言ってんだ、俺はまだやれるぞ」

「熱くなり過ぎだ我が友よ。いつでも判断は冷静に、だろ?」


 近づいて声をかけると大樹は、ばつの悪そうな顔になり一度深呼吸して冷静さを取り戻す。


「そうだったな。これは勝つのが目的じゃなく認められるのが目的だったな」

「そういうことだ。ま、後は任せろ」


 勝ち目は薄いが俺たちは負けず嫌いなんだよね。


 ジャンケンに負けたからとはいえ大樹は十分に役割を果たしてくれた。なら俺も自分の役割を果たさなきゃな。


 大樹に預けている制服の入った体育服用の袋をストレージから出してもらいその中からいつも持ち歩いているあるものを取り出し袋はまた預かってもらった。

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