第10話 試験

 冒険者ギルドの建物に入ると中は広かった。右側にカウンター等が有りそこで依頼などの受付をしていると思われる。そして奥にはテーブルが並べられていて食堂スペースになっていた。


 受付カウンターは申請と受注があったので申請の窓口に足を運ぶ。


「いらっしゃいませ。今日はどのようなご用件でしょう?」

「冒険者になりたいのですが…」

「冒険者登録に来たのですね」

「はい。登録試験をお願いします」


 異世界小説でよくある登録試験。これは弱すぎる者がなるとすぐに死亡するのでそれを防ぐための試験だ。ネット小説の知識だ。


「そちらの方も試験をご希望でしょうか?」


 受付嬢は大樹の方を向いて確認してくる。大樹が肯定すると二人してどこかに案内される。おそらくは修練場のような所に行くのだろう。向かう前に他のギルドスタッフに先触れを出していた。


 依頼関係を受け付けるカウンターと食堂の間にはスペースがあり奥に続く廊下になっていた。


「では鍛練場に向かいながら冒険者について簡単に説明させていただきますね。冒険者ギルドは持ち込まれる様々な問題を依頼という形で受け取りそれらを依頼書にして依頼掲示板に張ります。冒険者は自分のランクに合う依頼を掲示板から取って受付窓口で依頼を受注し、問題を解決して報告することでお金を稼ぐ職業になります。冒険者のランクは上から順にABCDEFと続き一番下がGランクになります」


 AからGね。なら俺たちの目標は決まったな。大樹に視線を向けると頷いてくる。改めて確認するまでもないな。


「依頼は先ほどの通常依頼の他に常設依頼と特別依頼の三種類になります。常設依頼は受注手続きの必要がなく依頼達成の報告のみになります。そして特別依頼ですが───鍛練場に着きましたので後程のちほど他のことも含めて説明させていただきます」


 開かれた扉の向こうは外だった。建物の裏側なのだろう。そこが鍛練場になっていて大樹と同じくらいの身長のオッサンが仁王立ちしていた。


 そのオッサンはスキンヘッドで胸板が厚く身体の所々に傷があった。あれが試験官なのだろう。


「あの傷、壮絶な戦いを経て付いたものとみた」

「【我が友よ、それは違う。あれは修行中に自ら負った傷だよ。敵に付けられた傷など1つもない】んだよきっと」


 『しまった』という文字を張り付けたかのような驚いた顔ようなになる大樹。「いえ、普通にモンスターとの戦闘で付いた傷ですよ?」とツッコむ受付嬢を余所に両手と両膝を地面について大樹は落ち込んだ。【まだまだだね】。


「試験を受けたいというヒヨッコはお前たちか。…なんだ、一人はやる前から戦意喪失したのか?」


 人生で一度は使ってみたい名言を俺が使ったからです、とは言えず大樹を立つように促す。


「装備はまだ調えてないのか。まあいい。武器はそこに有るのから好きなのを使え。それでどちらからやるんだ?」


 上部に口のない木製の箱には木剣や木製の槍などが入ってる。どちらからと聞かれたので大樹とジャンケンして俺が勝ったので後にした。精々相手の手の内を出させる当て馬になってくれ。


 そのまま向かおうとする大樹に受付嬢が声をかける。


「武器を持っていかなくていいんですか?」

「【大丈夫だ。問題ない】」


 問題あるやつじゃねえか。


「武器を使わないつもりか? まあいい、でも手加減はしなぞ」


 試験管が木剣を構える。と大樹は手を前に出す。そして踵を返してこっちに戻ってきた。


「【一番良い装備を頼む】」


 うん。知ってた。それがやりたかっただけだって。どうせならブッ飛ばされてから戻ってくれば完璧だったのに。時間は巻き戻せないけど。


 まともに使えそうなのは木剣だけなのでテキトーに手にとって大樹に渡してやる。隣の受付嬢さんは何とも言えない目を向けていたが大樹は気にせずに試験管の所に戻っていく。俺は両者を横から見れる位置に移動した。


「待たせたな。では始めようか」

「何がしたかったんだお前…」


 それは訊いちゃいけないよ試験官さん。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る