第7話 俺たちの冒険はまだ始まらない

 (勝手な)期待を裏切られ、勇者よりも遥かに性能の低いアイテムボックスにちょっと腹が立った。とそこで自分の中に違和感みたいなものを感じる。


 ふむ。これが魔力ってやつなのかな?


 力の流れを意識して身体中を巡らせる。聖典マンガのおかげかイメージは簡単だった。立ち上がってさらに中国拳法(ファンタジー)をイメージして構えながら身体を動かす。良し、これならいけそうだ。


「我が友よ、俺の前に石を投げてくれないか?」


 大樹が野球ボールより少し大きめの石を横から投げてくれる。手前まで来たタイミングでそれに右手で掌底を打ち込む。石は割れて幾つかの小石となり前方に落ちていく。


 感じ的に魔力を打ち込むことで破壊したかな? しかし砂レベルに粉砕はできなかったか。


 大樹は「おおっ」と驚きの声を上げる。

 

「…ネット小説なんかだと倫理観も現代の地球に比べて低く日本からの転生者でも倫理観を無くしたような行動を取ってるのが多いって聞くけど、やっぱそーゆー覚悟が必要なんかな」


 大樹が神妙な面持ちになってる。どうした? キャラじゃないぞ。


「どーゆー覚悟だ?」

「それは…あまり物騒なことを口にしたくないけど襲ってくる相手を殺す覚悟ってやつ?」

「馬っ鹿野郎!」


 左ストレートで大樹の右頬を殴る。とはいっても拳を痛めたくないのでほとんど押すような形だが。大樹はすぐさま抗議してくる。


「【殴ったね! 親父にも打たれたこと無いのに!】」


 こいつ、避けなかったと思えば…。さっきはシリアスっぽい感じだったのに。さては釣られたか? 某アニメの名言(CM改変ver)を吐きやがって。なら俺も負けてられん!


「そんな覚悟はクソだ! いいか、俺たちは元の世界に戻るんだろ! そんなことして戻ったときに心から笑えるのか? 後ろぐらくない人生を歩めるのか!?」

「友よ…」


 茶番はまだ続く。


「俺たちに必要なのはそんなんじゃ無え。俺たちに必要なのは【殺さねえ覚悟】ってやつだ」

「しゅ、主人公…っ!」


 ふっ、決まった。大樹の脳裏にも俺と同じ某少年マンガのダークファンタジー作品が浮かんでいるだろう。もちろん二人とも全巻読破済みだ。


「友よ、俺は国○錬金術師になるよ」

「化学のテストで赤点ギリギリ回避してるやつには無理じゃね?」


 そもそも俺たちに就ける職業は一つくらいしか思い付かないのでそれが無ければ詰みかねない。もし自由に選べるなら俺の希望は、



【職業:高校生 兼 死神】



が第一志望だ。


「真面目な話、この後どうするよ?」

「我が友よ。我々には、いや勇者であるお前には足りないものがあると思わないか?」

「というと?」

「勇者の仲間パーティには聖女が必要だろうが!!」

「た、確かに。心身共に俺たちを癒してくれる存在が必要だな!!」

「ならば次はどこに行くか判るな!」


 視線を交わし共に頷く。


「「次の目的地は教会だ!!」」






 遠くに見える大きな建物がおそらく街の中心なのでそこを座標にぐるりと回る。そもそも教会が在るかわからないが無ければ探すのをやめるだけだ。


 途中スラムっぽい場所を避けて歩いていると鐘の音が聞こえ、それに誘われるように教会を見つけた。


「それで友よ。誰が聖女なんだ?」

「我が友よ。古今東西フィクションにおいて聖女という人物には共通する記号があるのだよ。そう、『巨乳』という記号がな!!」

「なら胸の大きい美少女を探せば良いんだな!!」


 なんか条件が増えてるんだが。まあいい。


 俺と大樹は教会の敷地には入らず外から人を探す。中に入ってぶらぶらと人探しをしてて不審者に思われ声を掛けられるのを回避するためだ。まぁ外から中を覗くのも不審者に見えそうだが。


 魔力操作の定番ともいえる目に魔力を集中する。あと視力は脳の画像解析というどこかで得た知識も活かして脳にも流すことを意識する。効果はあった。


 しかし街中でも思ったがこうして改めて見ると顔立ちは様々だ。ヨーロッパ系の堀の深い人も居れば日本人に近い顔立ちの人もいるしそれらのハーフのような人もいる。髪の色もファンタジーと思えるようなピンクの人を街中で見かけた。


「お、あの人なんか良いんじゃないか?」


 大樹の示す方向に視線を向ける。どれどれ。


 年齢は俺らと同じくらいで髪の長さは頭巾ウィンプルでわからないが顔立ちもほぼ日本人に近くて可愛い。花丸パーフェクトだ。


「よし我が友よ。彼女を誘うんだ」

「え、俺一人で行くの? 付いてきてくんないの?」

「さっきのチンピラたちじゃないんだから。女性一人に男が二人で声をかけたら威圧感を与えて逆に失敗しそうだろ?」

「だったら覚理さとりでも…って俺が勇者だからか」

「そういうこと。わかったのなら行ってきてくれ。成功を祈る!」

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