第6話 巻き込まれ系モブ

「あとは称号か。できれば見なかったことにしたかったんだが…『勇者』ねぇ」

「なんだ、もっと喜ぶと思ってたんたが」

「いやこれ絶対面倒なやつだよな、地球への帰還の障害にしかならなさそう」


 その認識は多分当たってるだろうなぁ。


「しかし何故に勇者? 俺何かしたっけか」

「勇者ってことは常人にはできないことをやったとかか? 例えば初級だといかにも不味そうな新作のパンやお菓子に我先にと挑戦する感じか。上級だと女子風呂に突にゅ──貴様ぁ!!」


 大樹に向けて放った左ストレートが空を斬る。ちっ、反射神経良いな!


「えっ何何何? 何で俺キレられてんの?」

「き、貴様。よもや弟という立場を利用して杏のふ、風呂を覗いて───っ」

「やめてくんない!? その気持ち悪い妄想やめてくんない!!? てかそんな事があれば杏に殺されとるわ!!」


 それもそうだな。杏なら無言かつ汚物を見る目であの世に送りそうだ。


「すまなかったな我が友よ。少し取り乱した」

「少しじゃない気がするがまぁいい。というかまだ本気だったんだな。てっきりもう諦めてるものだと思ってたが」

「なぁ小さい頃にした結婚の約束って───」

「無効だろ、てか今さら持ち出したら引かれて距離置かれそうだな」


 だよなぁ。


「杏ってモテるじゃん? でも告白は全部断ってるみたいだし」

「だから実は自分が好きとか思ってる?」

「いや、実はもう相手がいるけど公にできない理由が有るとか。例えば付き合ってる相手が教師とか?」

「言われてみれば…あり得るかもな」

「くっ、これが寝取られってやつか…!」

「いや、お前の彼女じゃないだろ。どちらかと言えばBSSってやつじゃないか? てか結構余裕あるな」


 余裕なんて無ぇよ。冗談でも言わないとへこむんだよ。


「よし決めた! 元の世界に戻ったら本気で杏に告白する! 帰る目的モチベーションにもなって良いだろ」

「勝算無くやってもフラれるだけだと思うが?」


 いいんだよ、それでも。こんな訳のわからないことになってちゃんと終われないなんて嫌だって思えたんだから。


「ま、新しい恋もいいのかもな。そういや最近委員長と一緒に居るのを見かけたけど次の相手は彼女か? 地味だけど」


 ああそういえばそれも帰るための理由だな。


「地味って、普通に可愛いだろ委員長って。それに胸もデカイし?」

「(胸のことは気になるが)実は気があったりするのか? 意外だな」

「別に気は無えよ。俺は可愛い子を可愛いと評価ができるだけだ」


 胸に視線が行くのは仕方ない。この世の摂理だ。


「それに彼女って何でも一人でする性格っぽいから格好つけて困ったときにはいつでも助けるって言ったんだよな。なのに約束を守れないのはダサいだろ?」

「あー確かに。格好つけたんなら有言実行じゃないと」


 ここで茶化すでもなく本気で同意から大樹は悪友で馬が合うんだよな。


「さて、流れで恋愛相談みたくなってしまったが話を戻そう。勇者についてだが理由なんて分からないし隠す方向の考えで良さそうだ。ただお前が勇者だって気はしてたよ。魔法陣が追いかけて来たとき、その中心はお前に向かってたからな」


 あと大樹には言わないが下心が有れど困ってる人がいたらすぐに駆けつける性格なのも納得する理由だったりする。


「勝手に呼び出されて勇者とかホント迷惑」


 俺たちってオタクだし不思議パワーへの憧れはあるがヒーロー願望は無いんだよね。そういうのはもっと自己主張や承認欲求が強いやつを選べよなぁ。


「迷惑ってなら俺の方が言いたいんだが? 巻き込まれただけだし」

「でも巻き込まれたやつが主人公って作品もあっただろ?」

「ヒーロー願望は無ぇよ。それにそういった称号とかも無いから俺は可哀想なただのモブだよ」


 自分の鑑定結果は大樹のよりも項目が少なく更に簡素だ。



──

 名前:白羽 覚理


 HP:100(%)

 MP:99(%)


 スキル:シールドⅠ/ブラックボックス/魔力操作/鑑定

──



 とまぁ称号は何も無い、というか項目が無い。巻き込まれ系主人公にはならなさそうなのでそこは良かった。


 大樹のステータス? の検証が終わったので俺の方も軽く検証する。結果はシールドは透明度の高いプラスチックのような板が出てきた。大きさや厚みは変えられた。末尾のはアイの大文字なのかギリシャ数字のいちなのかは判らないがおそらく数字の方だろう。大樹にも着ける? ことができた。そしてブラックボックスだがこれはストレージの下位互換の性能だった。


 名前から黒い箱でも現れるのかと思ったが出たのは平面の黒い四角で立体にはできなかった。その大きさも10センチ四方くらいからは大きくできなかった。形は変えられるものの口の広さは変わってなさそうで両端を結んで繋げた紐の形を自由にできるイメージだ。


 そして口が少し小さくても石が入るか試したが引っ掛かって奥には進まず蹴って入れようとしても微動だにしなかった。本来の意味でのブラックボックスなのか? と期待して中に何か入ってないかと手を入れたが何も無かった。


 中二思考のせいで名前がブラックボックスになったとかなのか? そういえばスキルレベルのギリシャ数字は先入観が働いたと言えばそうかも…。


 そんな俺の残念さが表に出る仕様は要らねえよ!

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