第4話 あって良かったテンプレ
またも二人して目的地を持たずブラブラと歩く。
「しっかし、これからどうすっかね。ていうかこういう転移したときってお姫様とかが出迎えてくれるもんなんじゃねえの?」
「その場合は政治利用されたり使い捨てにされたりするパターンも少なくないな。それにネット小説じゃ歩いてたらいつの間にか世界が変わってるってパターンもある」
「元々居ない人間だから居なくなっても不都合はないってか? 怖いねぇ」
大樹に言った歩いてたら知らない内に転移してたって話は確かにある。しかし今回は当てはまらない。その理由は魔法陣だ。異世界人にしろ異世界の神にしろ誰かしらの思惑によって呼び寄せられた可能性の方が高いと思う。
しかし現状はその予測とはかけ離れている。何かしらのトラブルかはたまた奇跡的な偶然なのか。今は考えても答えは出ないなら保留かな。
「そういや異世界転生? 転移? したときって何かの能力が得られるってのがテンプレってやつじゃないのか? チートってやつ? 持ってるか調べられないの?」
大樹はネット小説の類いは漫画化したものをたまに読む程度でそれも途中の話数をその話だけ読むことが多かったためそっち系の知識はうろ覚えなのだろう。
「ステータスを見るときは鑑定スキルがひつうおっ」
大樹は無理やり歩くのを止めようとして重心が後ろに行きすぎてバランスを崩して地面に倒れる。
「え、何これどうなってんの? 友よ、凄いぞこれ!」
友って誰のこと? 僕はあんな恥ずかしい人は知りません。人違いです。
大樹が小走りで駆け寄って来るのを感じたので路地に入る。………流れとはいえまた路地か。こっちの世界に居る間は日陰者になるって暗示か何かか?
路地には椅子代わりになりそうな大きな石が二つ有ったのでその一つに座る。と同時に大樹も路地に入ってきた。
「置いてくのは酷くね? 人目を忘れてはしゃいだのは悪かったけど─って何で街中にこんな大きな石なんて有んの? 誰かが態々持ってきのかこれ」
「逆だろ。小さな街が広がっていって元々この大きい石が有った所に家を建てたんだろ。この辺は家の作りが簡素だから移動させるのが面倒だったんじゃね」
ふーん、と大樹ももう一つの大きな石に座る。
「それよりもステータス画面っぽいものが出たぞ! Heyステータス!!」
○iriでも呼ぶかのよう掛け声と、何のためか分からないが右手を付き出してた。
「あれ? 出てこない…」
どうやら大樹のsi○iは使い物にならないみたいだ。出てきても無能なら『お前を消す方法』とか訊くことになりそうだ。
「あっれぇ? さっきは確かに出たのに。ステータスや鑑定って一回だけだったのか? おっ? あ、なるほど。鑑定って言うと出るのか」
見えるかこれ、と大樹が指差すが俺には見えない。
「見えねえ。だけど俺も同じスキルを持ってるな」
「ていうか興奮しててさっきは疑問に思わなかったけど何で鑑定? が使えるようになってるんだろ…」
「急に冷静になるのな」
常日頃オタク故に不思議パワーに憧れて使えるようになりたいと思ってたけど、いざ使えたら何で使えるのか疑問に思う程度には俺たちもちゃんと現実的な思考をしている。ちなみに鑑定は対象の情報を表示するものだ。
「俺も疑問に思うけど答えは出ないだろ。使えるようになったという事実を受けとめる事しかできん」
ネット小説では身体に異世界の魔素を取り込んだことで身体が何故変質したとかの説明は有ったが同じ理屈か何て判るはずもない。
「だから今は考えるだけ無駄だ」
「それもそうだな。いつか知ってそうな人がいたら訊くくらいでいいか」
そう結論を出して使えるものは使うスタイルで考える。
話を戻し鑑定の内容に違いがないか口頭で確認したが同じようだ。ネット小説では鑑定スキルを持つのはテンプレでそれがあったのは僥倖だ。あともう一つのテンプレも。
「画面で確認できるのは名前とHP・MP・スキルに称号か」
大樹の鑑定結果は次のようなものだった。
──
名前:鳳 大樹
HP:100(%)
MP:99(%)
スキル:武具創造/ストレージ/鑑定
称号:勇者
──
「なんかステータス? の表示って思ってたのと違うな。もっとこう、攻撃/防御/特殊攻撃/特殊防御/素早さ とかも有るものだと思ってた。あとレベル」
それだと特性や性格が足りてないぞ。
「有ってもそんなに役に立たないんじゃないか?」
「なんで?」
「VITをたくさん上げたら不思議パワーで刃物を通さない身体になる! とかじゃなければどれだけ数値が高くても心臓を刺されると死ぬだろ」
逆にステータスが絶対になるとSTRは高いけど紙装甲って数値だとちょっと力を入れただけで骨折したりしそうだ。
「この世界にはゲームみたいなシステムは無いだろうな。もしあればさっきのならず者に返り討ちにされてただろうしな」
今更だがあれは結構危ない行動だったな。
「なるほどね。ま、有ってもいちいち憶えるのが面倒か。でもHPが100ってこれは100回殴られたら、いやデコピンされたら死ぬんかな?」
「よく見ろ我が友よ。100の固定じゃなく100%だ。最悪デコピン1回で死ぬぞ」
「マジかよ! 怖すぎるんだが!?」
「さすがにそれは冗談だけどな。さっきの不思議パワー理論じゃないがデコピン1回で死ぬなら、ならず者へのラリアットのときに腕に来る反動でも死んでるだろうし」
ただ0になったら死ぬという認識で行動するのは危なそうだ。
25%になったら身動きができず死に体になるくらいには思っておいた方が良いか? いや、血液だと20%も無くなれば出血性ショックになると何かで読んだな。となると85%でも赤信号か?
結局これは棚上げだな。実験したくても命に関わることだから準備はどれだけしても足りないくらいだ。
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