第3話 テンプレを求めて
とりあえず路地から出て歩く。これには目的地は無いが目的はあった。
こういう時は何かしらのイベントが起きて能力が覚醒したり何かしらの行動方針が決まったりするのが定番なのだ。ネット小説で読んだから間違いない。
「やめてください!」
思ってたそばから早速イベント発生か。
路地から女性の声が聞こえてきた。どうやら二人のならず者に絡まれているようだ。
路地は広めで奥が行き止まりになっているが、女性はその奥にではなく右側の壁に背を向ける位置だった。
大樹はすぐに駆けつけていった。やっぱあいつ素質あるわ。
俺は路地からは見えないように大通り側の壁から顔だけ覗かせる。ならず者は一人が180センチある大樹よりも少し高くガタイも良い。もう一人は背が低く、大通りに背を向けるように立っていたから大樹に背中を蹴り飛ばされてのびていた。
人数で不利な場合は弱いやつから倒すのはセオリーだな、うん。
「あん、なんだテメェは」
男の『あん』とか誰得よ?
「嫌がる女性に迫るとは男の風上にも置けないやつだな」
大樹はカッコつけながら相手に立ち塞がるように二人の間に割って入って女性を庇うように腕を…あっ。
「ひゃっ」
「ん?」
大樹が庇うように横に出した手が女性の豊満な胸に当たった。ていうか今あいつ、揉・み・や・が・っ・た!
なんと羨ま─けしからんことを! 断じて許すまじ!!
「いやああああああああ!」
女性が悲鳴を上げながら近づいてきたので顔を引っ込めて壁に背を預け素知らぬ振りをする。女性は横を通り抜け人混みに紛れ消えていった。ああ、せっかくの
再び路地を覗き込むとストリートファイトが始まっていた。
「どうしたどうした、蝿でも止まりそうな遅さだな!」
「ナメてんじゃねえぞクソガキ!!」
大樹は挑発しながら足を使って回避している。そして奥の行き止まりに背を向けるように立ち回っていた。
俺はその意図を読み取る。しかし大樹の思惑通りに動くつもりは無く極力足音を殺して駆け出す!
何事もバランスが大事だよなキィィィィィック!!
がら空きの背中を思いっきり蹴っ飛ばすとならず者はつんのめり、それに合わせて大樹がラリアットを喰らわす。
「がはっ」
勢いよく地面に背中を打ち付けたならず者は気絶した。
「ナイスアシスト」
「くっ、大の男と
「何お前、そんな邪悪なこと考えてたの? 悪魔かよ」
「ラッキースケベしたんだからアンラッキースケベでバランス取ろうとしたんだよ!」
「あれは…すごかった」(^q^)
殴りたい、この笑顔。
ご満悦の大樹にイラっとしたのでちょっと脅しておくことにする。
「まぁ命と引き換えだからバランスは取れてるか」
「え、何? 命と引き換えってどういうこと?」
「ネット小説だとああいうのは王女さまがお忍びで来てたってパターンが多いんだよな。ほら小綺麗で育ちも良さそうだっただろ?」
「言われてみればそんな気が…」
「そんな王女さまの胸を平民が揉んだとなれば行きつく所は一つだよなぁ?」
俺は親指で首をかっ切るジェスチャーをすると大樹の顔から血の気が引いていく。
「ま、またまたぁ。そうやって脅そうとしてるだけだよな? そうなんだろ?」
乾いた笑いの大樹に、
「元の世界に戻ったら杏にはこう伝えとくよ。『お前の弟の最期は無様だった』ってな」
「そこは嘘でも『漢らしい散り様だった』にしてほしい!」
頭を抱えた大樹はニヤけ面になったかと思えば血の気が引いたりと感情が忙しくなっている。これで思い出す度に暗い気分も付いてくるのでバランスは良くなったか。
まぁ王女云々は所詮フィクション、現実では護衛も付けずに庶民の街に来ることは無いだろうし、そもそもそんな身分の人だと気軽に出歩けないだろう。そんなことよりもやることがある。
のびてる二人のならず者のちっちゃいほうのポケットを探り通貨らしき物が入った小さな袋を取り出す。
「我が友よ、今はまだ生きてるんだからそっちの奴のポケットを探ってくれ」
「今はまだって近いうちに死にそうな言い方やめてくんない!? あとそーゆー追い剥ぎみたいな真似はちょっと…」
「これは緊急避難だよ。お前も言っただろ、俺たちは今次元レベルで遭難してるって。それに倒したモンスターからは剥ぎ取るしトレーナーに勝ったら賞金貰うだろ? それと同じだよ」
ゲームの話じゃん、と言いながらも大樹も懐を探ってお金の入った袋を取り出す。俺だってこんな事態じゃなければしないっての。ホントなら助けた女性に何かしらのお礼を貰えたかもしれなかったんだけどな。
大きい方の持ってた袋には沢山入ってた。数日凌げるくらいあれば有難いんだが。
ならず者が起きて第二ラウンドが始まると面倒なのでそそくさとその場を後にした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます