第2話 思い…出した!

 視界に彩りが戻ると混乱する頭で、それでも隣に友人が居ることだけは理解しながら思ったままのことを口にする。そして言葉を交わした後に頭を整理してまた隣の友人に質問する。


「なぁここが何処だかわかるか?」

「ここが何処かなんて…そうだ! 地図アプリを開けばこれが質の悪い悪戯だって証明できる! 文明の利器最高!!(スマホ操作中)………回線が繋がってない。妨害電波ジャミングの装置でも使ってるのか? 手が込みすぎだろ!?」

「我が友よ、現実を見ろ。一般人を騙すのにそこまではしないよ」


 相談や確認したいことがあるから人目の付きにくいよう路地に移動する。壁を背にしゃがむと大樹が口を開いた。


「なぁ、俺は漫画版の作品を少し見たくらいだけど、これって所謂例のか?」

「それに答える前に訊きたいんだが教室に戻ろうとしてた時に何があったか憶えてるか?」

「視界の下側に変化があったから咄嗟に走り出したことか? あの光はアニメとかで見る魔法陣ぽかったよな?」

「お前にもそう見えたってことはやっぱりここは、さっきまで居たはずの学校の敷地内どころか同じ街ですらないのは確かか。まぁ安易かもしれないが異世界に召喚されたと思えるわけだが…」


 歯切れが悪くなってるのはイマイチ信じられないからだ。そりゃ異世界に転移なんて簡単に信じられる奴なんてヤベーだろ、って思うだろうがそうじゃないんだ。


 建物の形から自分たちの居た街じゃないってのは確かなのだが、それに付随する文字が日常的に見ていたものと同じなのだ。つまりはそこかしこに日本語(平仮名・片仮名・漢字)が溢れてるんだよね。


 例えるなら海外に旅行に行って観光ガイドに乗ってたお薦めのお店に入ってお薦め料理を注文したら和食が出てきた、そんな感じか? 海外旅行はしたことないけど。


「建物からよくある中世ヨーロッパに似た異世界だとは思うんだけど使われてる文字はどう見ても日本語だな」

「あれ、でもそういうのって自動翻訳してくれるって漫画であった気がするけど…?」

「そうだな、基本的(と言うのが正しいかは微妙だが)には翻訳の能力が付与されることが多いかな。たまに文字も読めるって作品があるけど」


 でもそれらは現地の文字が何となく読めるってだけで日本語に見えてたわけじゃないはずなんだよな。というか言葉だけで文字は対象外ってのも多いし。


 実際の異世界転移とフィクションは違ったってだけのことかもしれないから余り深く考えなくてもいいのか? そうだな今は深く考えるのは止めよう。それよりも他に考えることがある。


「もしこれが夢じゃないなら飯と寝るところをどうにかしないとな」


 大樹と言うとおりこのままだと飯にありつけず寝れる所も無い。この世界は地球の歴史でいう所の中世っぽいが以前観た動画では城の中での話だが床で寝るのは命懸けだったらしい。


 なんでもネズミに噛まれたら病原菌を持ってるからこの世とお別れすることになったのだとか。くのはもちろん夢の国ではなくあの世だ。


「はっ、俺はとても重要な事に気付いてしまった!!!」

「なんだ!? ヤバいことか!!?」


 真剣な大樹に頷く。


「お前買い物どうすんの? 杏に頼まれてただろ。このままだと杏がキレるんじゃね?」

「それって今気にする事かなあ!? 俺らは今現在、次元レベルで遭難してんのよ!?」


 でもこの手のジャンルの物語だと元の世界に戻ったら居なくなった日の数時間後ってパターンがあるんだよね。だから手ぶらで帰ってキレられるオチになりそう。


 もしそうなったら心の中で合掌し我が友の冥福を祈ることにしよう。

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