喋る犬リエンと過去へのゲート
月日刻は3月1日の午後10時40分頃になった。最近、時間が経つのがあっという間である。過去のことを思い出していたら、誕生日もあっという間に終わりそうだ。
そんな中、私が拾ってきた犬のリエンの顔の表情が変わりだし、怪しい動きをはじめた。
曲を歌いだした。
私の『通りゃんせ』に対抗してか、『かごめかごめ』である。
"過去へ過去へ♪
過去の中の鳥居は♪
いついつ出逢う♪
夜明けの前に♪
鶴と亀で統った♪
後ろの正面なーに?"
ところどころ正規の歌詞と違う気がするがいい。
リエンが喋りだした。
「今は戌の年、戌の日、戌の刻、戌の時間だよ。10分間だけ君と喋ることができるんだ。寅の月だけど、サービスしておくよ。」
なぜか日本語である。古風な犬だなぁ。
「なんでそんなに流暢に喋られるんだ。」と俺が聴くと
「10分しか喋られないのに、そんなことを聴くの?早くしないと亥になっちゃうよ。」
続いて言う。
「戌は君の
「お前は普段何を考えているんだ」
「愚問だね。だから君は遅いんだよ。そんなことばっかり考えているから」
「すみません。」
「謝る必要はないよ。むしろ感謝してほしいぐらいだ。こちらは恩を感じて、せっかく過去に君を送ろうとしているんだから。まぁ、俺もついていくけどな。」
「は、はぁ。」
俺はわけもわからず頷く。
「戌年から戌年へのテレポートが可能だ。君は30歳。戻れるのは18歳と6歳ということになるね。どっちがいい?『過去に戻りたい。』って言ってたよね。」
「今までのセーブデータは引き継げる?」
「できるよ。強くてニューゲームが可能なんだ。」
「6歳と18歳かぁ。6歳から15歳まではほぼ選ぶことができない訳で、選択できるのは高校ぐらいか……。なら18歳に戻りたい。」
「正確には高2の3月に戻るよ。それでもいい?」
「うん」
「過去への転送ゲートを用意するね。」
室内に鳥居が現れる。
「犬は11番目の干支。最後の手前。算命学では空亡の時期で、穴が空いていて不安定。変わるなら今だよ。とり・いぬ・いの犬がないと鳥居になるんだよ。生まれる前に居るから居なんだよ。『居ぬ』は古典でも帰るという意味があるんだよ。」
「なんか説得感があるなぁ。」
「今日の午後10時50分までにこのゲートを通らないと帰れないよ。持っていきたいものがあったら用意して通ってね。物体はなんでも持っていけるよ。」
かくしてまるで核ミサイルが飛んでくるとわかった時に核シェルターに何を持ち込むか選ぶみたいな俺のリサバイバルがはじまった。制限時間はあと8分。何を過去に持って帰るか・・・
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