第5話 自分の範囲

 「ねぇ、結局ひろみちゃんは例の村に行ったの?」

 「んー、日曜日に連絡来てる」

月曜日の教室、偶然出席番号が隣同士だった古屋と柳はそんなやりとりを始めた。

 「村の場所はどこだった?」

 「連絡がない」

 「え」

柳の口から出たその言葉に古屋は驚きの顔が隠せなかった。

 「いつもならゲームにもログインしてる時間なのにそれすらない」

 「嘘だよね?ひなたちゃんってば急に距離詰めてくるタイプ?」

乾いた古屋の笑顔の奥に、妙な罪悪感が湧き上がってくる。

 (もし、本当に行っていたとして、遭難とかしたりしたら)

罪悪感は目に見えるようになってきた、ゆびさきが震え出し止まらない。

 「おれ、俺さ、2人を探しにいくよ」

 「…うん。」

 「ひなたちゃんはどーする?」

 「…行くよ」


 2人は廊下を走るその先は生物準備室であった、古屋は辿り着くと同時に扉を大きく開いた、しかしそこに期待に応える存在はいなかった。

 「何っでこー言う時にいないわけぇ!?」

 「居ても協力してくれるタイプのおじさんだとも限らないかも」

2人が探していたのはこの部活唯一の足を持っている顧問の亀水である、彼がいればもっと早く解決できたのに、少なくとも高校1年の古屋の頭ではそう確信していた。


 「なんで、なんで…」

古屋はその場にしゃがみ込む、肩で息をするその体を休ませたとしても思考は絶えず動きつづけ、最悪のシナリオがどんどん浮かんで頭を埋め尽くしていく。

 「…なんでそんなに焦ってんの?」

柳は古屋に問いかけた

そう、彼らはきっと村なんて見つけられなかった、ただその無駄に探検した一日に疲れて今日はズル休みたったそれだけの思考を飲み込めば浮かぶ悪夢を止められる、そんなことはわかっている。


 「お前って友達がいねーの?」

あまりにも突然、柳は溢れるように口にした。

 「は?え?なに言ってんの?」

 「唯一の友達が死にかけてますみたいな顔してるから」

 「どんな顔だよそれぇー」

彼はいいな、何を言ったって彼の世界として受け入れられるから。

 「ねぇ、俺っ…どーしたらいいかな」

 「僕はアホだからわかるわけない、でも古屋がやりたい事を教えてくれたら僕ができる範囲でする。」

 「強いねー、そーね、まず考えないと」

古屋は考える、今までこんな状況に陥ったことなんてない、だから経験を活かすことなんて到底むりだった、でも彼ができる範囲でするそれは自分も同じことが言える。

 「タクシー、タクシーだよ、ひろみちゃんの会った男は結局バスに乗らなかった、でも交通手段を持っているならそもそもそこにいる必要はないんだ、バス停ならタクシーだって呼べる、仮に男を知らない運転手でも何か情報が得られるはずだよ、ひなたちゃんには誰かを助けるのに必要なものを集めてもらうし、俺の話を引き立てるために俺についてきてほしい。」

 古屋は頭の中で答えに辿りついた、自分にはやっとの思いで手に入れたコミュニケーション能力(自称)がある、それを今使うんだ。




 ずっと何も言えずねーちゃんの背中に居続けた小学生時代が嫌だった、ねーちゃんが卒業してからはお下がりを使うたびに笑われた、俺の家そんなに金持ちじゃないのくらい小学生の俺でも分かってたから我慢した、我慢、我慢、がまん


 でも、あいつらは知っていて、何度説明しても聞いてくれなかった、仲良くしてやってんだから、それが理由で俺の弄ることが日常になった。


鬱陶しい時間は中学も続いた、そんな時新設校への新入生募集を知った、俺のことを揶揄っていた奴らは仲良しこよしで工業高校に行ったらしいけどそのあとは知らない、だって俺はもうあいつらに揶揄われていた俺じゃないから。

 ねーちゃんに頼んで髪も脱色した、ピンクのベストとヘアピンどう見たって勝ってんじゃん?

 


 「なーんだ自称陽キャだったのか、どうりで絡みやすいわけだ」

 「なっ!自称じゃないよ?今はホント!それに絡みやすさはコミュ力だけど?」

 「ふーーん?」

 「ひろみちゃん達には秘密にしといてよね」

 「頑張るわー」

 「頑張るんじゃないの!するの!んもーともかく2人を探しにいくよ!」


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