第3話 友達って?
それから結局図書館に行って桜百選やこの辺の村なんかを調べても結局村についての情報は出て来ず、その土曜日がやってきた。
隣町へ行くバスに乗りアニメショップへ出向く、だって今日は『ニャン子』の3周年記念グッズ販売の日!
そう、俺はこの日のために小遣いを溜めてきたに等しいのだ、バス民ですからちょっと出遅れ感はあるが列には並べたのでヨシ!である、しかし最近は転売ヤーが
「抽選券の配布をはじめまーす」
店員は拡声器でそう合図を出すと前から一斉に配り始めた
(い、いや、人の多さ的になんとなく察しはしていたがオタクに優しくなさすぎるだろ、ここはせめてアニメ何話のタイトルは?とかキャラの誕生日とかそういうオタクじゃないと答えられない質問とかで対応してくれよ…!転売ヤーどころかオタクまで切り捨ててどーする!)
いよいよ明星の番がやってきた、恐る恐るコピー用紙で雑に作られたくじを開ける
ハズレ
(終わった…購入の権利すらないのか…この世はオタクに厳しすぎるだろっくっそぉ…、こ、こうなったら転売ヤーの手に堕ちろと言うのか?)
明星は恐る恐るフリマアプリを開く
ニャン子3周年記念フィギュア 5万円
(定価は1万5千円だぞ?どう見積もったらそーなんだよ!!!)
店から出て来る紙袋を持ったニタついた顔達を睨みつけていく、大人なら次の店まで車を走らせるかもしれないが明星に残された残金は帰りの電車代のみ、バイトをしていない高校生にとってそんなことは出来ないのだ。
何度でも言おう明星ひろみは金欠であると。
「あっれ、ひろみちゃんじゃん?」
なんだか今一番聞きたくない声が聞こえた。
「…古屋くん、ワーキグウダネェ(棒)」
「ひろみちゃんもニャン子?」
「うるさいです、ほっといてください、いやもうなんでもいいです、どうとでも罵ってください」
(だって陽キャとは生きてる世界が違うんだから)
誰かに何かを言われてなくても勝手に悪い方に考えるのは俺の昔からの癖で短所でもある、でもだからって元気出せよなんて言われて出るようなものでも無い、結局ネガってみんなに迷惑かけて嫌われる、ああそっか、だから新設校に避難したかったんだっけ。偏差値とか後付けでそれっぽい誤魔化ししてたらみんなそっかって終わらせてくれる、だって誰に俺に興味なんかないから、矛盾していることを言うけれど、誰も興味を持てない俺に誰かに悪口を言われてる気分にもなるんだ、今からあの古屋という男に罵られるんだ、また唇を噛んで耐えよう。
「ちょっとちょっと!そんな唇噛んだら傷になるよ?」
古屋は俺の腕を掴んでくる
「俺、変なこと言っちゃったんでしょ?ごめん、えっとー、うん、そこにドラックストアがあるからリップでも奢らせて?リップ奢るってなんか変か…」
「いや…その…(ズビッ」
「あー!ちょっとちょっと!これティッシュ使って!?」
傷ついたオタクに優しさは効く…。
「本当にいたんだオタクに優しいギャルって」
「オタク?ギャル?なんのこと?俺のねーちゃんの話?」
少し落ち着いて古屋の話を聞くと、古屋も姉に頼まれてニャン子を入れにきていたらしく、俺と違って当たりを引いたらしい、それは手に持っている紙袋ですぐに分かった。
「あーこれ?お詫びにこれ渡そっか?」
明星の視線に気づいた古屋はそう問いかけるが、明星は大きく左右に首を振った
「ダメ!ダメだよ!この子はおねーさんのニャン子だよ!」
同じニャン子オタクとしてそれは譲ってもらうわけにはいかない、それに古屋に当たらなかったなんて嘘をつかせてまで手に入れるのはあまりには卑怯だ。
「ねーちゃんは別の店舗にいんだよね、そんで、ねーちゃんがどーだったか分かるまで俺と遊ぶってのはどーう?」
「え?俺そんなに見てた?」
「んー見てたって言うかその鞄についてるやつ全部ニャン子でしょ?そんなに好きな人が俺の友達にいるって言ったら多分ねーちゃんは渡していいって言うと思うんよね」
「ともだち…」
「ねっ!なんか俺も気になってきたからそこのカフェでどっから入ったらいいか教えて?あ、こう言うのって入るであってる?」
「う、ああ、うん」
今まで自分で作り上げてきた壁を、今まで見たことがないほど個性的に超えてくる人達がこんなにも短期間で集まるだなんて、なんて…なんて不思議な気持ちなんだろうか。
入ったことのないカフェで古屋は呪文のように何かを店員に頼んでいた。
「ひろみちゃんは?」
「俺、この店初めてでなんもわかんなくて」
「俺もねーちゃんとしか来たことないからオソロみたいなもんよ、そーね、ひろみちゃんは甘いの好き?チョコとか」
「チョコは好きかな」
「ならー、あっ、これください!」
明星は手渡されたものを見ても結局古屋が何を頼んだのか分からなかった、ただ冷たく甘かった、でも古屋との会話はとても…楽しかった。
言葉を聞き返されることもない、嘲笑うように肯定するような言葉を並べたりせず、まるで全て知っているかのように決めつけたりもしなかった。
(( もっと早く出会ってたら、あんなにも苦しい日々なんて無かったのかな))
カフェの時計が昼前を指す、カロリーをそこそこに摂取しているからか空腹感は感じられないものの、会話の手札はどんどん消化されていた。
ふと、古屋のスマホが振動する
「ねーちゃんからだ」
「あ、うん」
会話が途切れると妙な静寂があった
「ねーちゃんがそのフィギュアあげるって」
古屋はそう言ってスマホの画面を見せてきた、そこにはさっき古屋が言った通りニャン子が好きな友達なら勿論譲るという内容で、また話をしにきてほしいとも書いてあった。
「友達呼ぶのってそんな軽いもん?」
「あー、まぁ、ちょっと訳ありって感じ?」
「そっか」
明星は紙袋をしばらく見つめ、古屋に提案する
「そのニャン子のフィギュアさ」
「うん、なぁに?」
「れんが貰ってくれない?」
明星は自然と下の名で彼を呼んでみた
「俺が貰ってもよく分かってないよ?」
「俺が好きになって欲しいから受け取って欲しい」
黒神に教えられた言葉だった、学んだことを反復するようにそのまま古屋に押し込んだ。
「好きになってほしい、か…、あははそっか」
明星は結局何も持たないまま家に帰り自室にいた、明日はいよいよ村に行く日、こういう時何を持っていけば良いのかとか今まで考えたこともなかった。
スマホをスワイプし虫眼鏡が現れるのを確認するとそこに指で入れていく
[花見 持って行くもの]
あるいは
[探検 持っていくもの]
だろうか?
そうするとゲーム攻略をはじめ無人島の話、サバイバル向けの携帯ナイフやらと必要なさそうな情報が溢れていた、情報社会は便利なようで難しいのかもしれない。
矢印に指を置き検索を一つ戻る、結局花見の準備を見て明日の持ち物を確認することにした。
“食品“、“ブルーシート“、“ウェットティッシュ“、…
(食品はともかくブルーシートはキツくないか?高校男子2人でシート広げて弁当はちょっとな…、黒神なら喜ぶんだろうか?)
明星は面白半分で幼少期に使っていたレジャーシートを引っ張り出しリュックへ捩じ込んだ。
カーペットの上でスマホが僅かに振動し、メッセージアプリの通知を表示した
『明日コンビニに寄っていく?』
黒神からの通知だった、彼も同じように準備を今しているのかもしれない。
(こんな時一緒に準備しようって誘うもんなんだろうか)
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