第2話 桜に招待されて

 学校が始まって授業も1周し、生徒の扱いに慣れてきた、先生たちがやかましくなってきた、それは俺も同じでこの街のマップ埋めもかなり進んできた。


 交通を安定させるために複雑な道は作られず碁盤の目のようにされている、この街を横断するように電車も通っていて、さらに端には海があり港がある。

アミューズメントパークと言えるような施設は無く、完全に仕事の街だった、その代わり食品店なんかは賑わっていて話題のパン屋をはじめ老舗しにせの二号店が立ち並び、人々も絶えず足を運んでいた、若者のすべてがゲームセンターに入っていくわけじゃないってことだろう。


 ただ俺は写真を撮るための食品に興味がない、だからもっと面白い店でもないかと学生の特権を使いバスで探検してみることにした、今のところ遊びに行けるのが隣町だけって言うのは電車代を考えると小遣いが勿体ないし。

 バス停のベンチで待っていると黒スーツの男が隣に座る

 (わざわざ隣に座る必要ある?こういう時はさなんか気まずいし立って待つじゃん?5分程度なら我慢するけど…まぁ人さまざまか)

 「桜はお好きですか?」

突如として男は尋ねてくる

 「え、あー綺麗ですよね?でもこの辺はもう散っちゃったんでまた来年ですね」

 「見える」

 「え?」

 「見えるさ、旧国道沿いに脇道がある、そのっずっと奥にトンネルがある、それを抜けるとすごく綺麗な桜が咲いている。」

 「あーそなんですねー」

明星は聞き流した、そんな遠い場所に高校生だけの足でたどり着くことなんて到底無理だ、それに明星からしてみれば花見なんてするよりもいい事の方が身近にあるのにそんなことに時間を使いたくなかったからだ。

 「バスが出ていてね」

 「はぁ…」

 「とても綺麗なんだ」

男性は明星に何かを見せる、古めかしい手帳のような切符で何枚も切りとられ薄くなっていた。

 「これを使いなさい、駅前からバスが出ている、友達と行くと良い、きっといい思い出が出来る、あそこは、あの村は素敵な場所だから。」

 「は、はぁ」

男がそこまで言い切ってしまうと、それを待っていたかのようにバスが到着し、運転手に乗るのか?と催促され結局男に切符を押し返すことが出来ずそのまま掌に収めてバスに乗り込んだ。



 「んで?どーなったんだ?」

昼休み、生物準備室にて明星は先日の出来事を亀水に話していた。

 「えっと、これがその時貰った切符です、ホッチキスがされてる周りがなんかもろくなってるんで気を付けてください。」

亀水は手渡された切符を眺めるとメガネの奥でしわが寄っていく

 「おじさんもこの土地に詳しいわけじゃねーけど、こんな路線聞いたことねーぞ?つーかなんではここに居んだよ」

 明星は弁当を持って、黒神はカップ麺を持って準備室に置かれた椅子に座っていた

 「アイエエエ!?クロカミサン!?クロカミサンナンデ!?」

 「明星くんが教室から出ていったの見たからってのもあるけど、ここならお湯貰えそーだなーって」

黒神はカップ麺を亀水に見せる

 「おいおい、準備室ってのは飲食禁止だぞ?なのにおじさんが持ってるって思ってんのか?」

 「むしろ、先生だから?」

 「はっ、そーかい、まぁ当たりだな、あるぞ」

亀水は電気ポットを指さす

 「茶をしばくにはいいぞ、水道水は使い物にならんからミネラルウォーターを買って沸かしてるから大丈夫だ、汁は排水溝に流すなよ?」

 「さっすが先生っ」

黒神はそそくさと乾麺にお湯を注いだ

 「僕はさ、明星くんの言ってる話すごく気になるなぁ」

 「黒神さん桜好きなんですか?」

 「いんやぁ?君が変なおじさんから好かれてるってところから面白い」

 「それは面白くないんですよ」

 「敬語なんて使わんでもいいのに…。」

彼は入学ではなく他校からの転入になっていた、それは他校で留年になったからだと聞いた、その学校での留年ではないのは大人による配慮なのかは俺にはわからなかった、同じクラスだし同じ学年だけど年上だと思うとどうにも敬語を使ってしまう。

 「いやぁ、ちょっと…ね?」

 「そう?年上だからとかって気を使わないでね?」

そこまで言うともう3分経ったのか、フタを開け麺をすすりだす、俺は言葉にしたつもりは無いのに、見透かされているようだった

 「まーほんとに駅からバス出てんなら街からいける観光スポットとして一本書けるわなぁ?」

亀水は上から湯呑のふちをつまみ茶をすする

 「いやぁ、うーんまぁそーですけど…」

 「僕もついていくしさ、一緒にいかない?」

黒神はなんとも楽しそうでここで断る気が湧かなかった(正確には否定できるほどの強さを俺が持っていなかったからだ)


その放課後、二人は教室にいたなんという不運かあるいはもう慣れたか、まだ学級委員が決まっていないからと言って日誌を頼まれたからだ、前の週は先生が書いていて生徒の初めは自分達で新品のノートの一ページ目のように慎重に字を書いていった。

 「昼休み言ってた村、調べてみようかなって考えたけど、こんな切符使う村ならホームページとか絶対あるわけないよね」

 「おまけに物好きがいないと村の調査資料とかも出ないかもねぇ?」

沈黙にボールペンの音が響く

 「でもさ、桜が綺麗って情報があるならみんな知ってそーじゃない?」

 「それもそーだねぇ?桜百選とかあるし?」

 「そーいうのにも載ってないなら思い出加工とかになるよね」

 「むしろ穴場として紹介ってことろ?」

 「…。そっか、なにか書かないと終われないもんね」

また沈黙が包むがそれを劈くように足音が二つ分やってくる

 「あっれー?とおるちゃんもいる~」

古屋と柳の二人であった、あの日以来の再開と言うわけではない、男子の人数が少ない分体育を合同でしていたからだ。(柳は明星に体操着を借りることができない事を残念がっていた)

 結局日誌を執筆する明星の周りに3人は椅子を持ち出し集まった

 「明星くんとね、不思議な村について調べたいって話してたんだ」

黒神は今までの経緯を古屋達に話し出す。

 「村ぁ?そんなの面白い?」

古屋は驚いた顔を見せたかと思うと変わってるねと笑いだす


 「でも知らないお花見スポット知ってるのはちょっと良いよね?村の規模とか分かんないけど、雰囲気あるならデートスポットじゃん?」

明星は思った

(陽キャ×桜はデートスポットになってしまうのか)と

 「でも俺は遠慮しとくかなー、もっといい話題ありそうだし?」

古屋はあまり興味が無さそうと言うよりも、面倒ごとから離れるようで、明星もそれを感じ取った。

 「じゃ、じゃあさ?俺と黒神さん、古屋くんとひなた、別々で違うことを調査してどっちが面白いかってので載せるほうを決めない?」

 「もし両方そんなに書くことがなくても、両方あれば埋められるもんね」

黒神は明星と古屋を交互に見て楽しそうに言う、そんな姿を見ては嫌だとも言いきれないのか古屋も わかったよ。とひとつ返事で承諾した。

 「じゃあ次の休みまでに図書館とかで調べて行こっか?」

 「あーごめん、土曜日は予定あってさ、日曜日でいい?」

 「見に行くだけだし、大丈夫だよ」

古屋と柳の前で2人は約束を取り付けた

 「2人より面白い話題見つけないとね?」

古屋は柳に笑いかけるが柳はポカンとしており、話に入ってきているのかすら分からなかった。

(まぁ、ひなたちゃんってこういう子だもんなぁ)

古屋は面倒事の大きさを無理矢理飲み込まされて理解した。




 その帰り道、黒神と明星は隣同士歩いていた、それはそれは先ほどまで話していたものの続きで、話は土曜日に何があるのかという話になっていた。

 「おんなじクラスの相手で、同じ部活だけどさ、俺たちそんなに仲が深まったって感じなくない?だから嫌!」

 「そうかなぁ?僕はもうとっくに仲良くなってると思ってたのに…。」

そう言われるとなんだか言葉に詰まってしまう、彼はどれだけ俺を信用しているのだろうか。

 思えば誰かとこんなにも一緒にいたことはあっただろうか、ひなたは…いや、あいつとは幼馴染で親が仲良いとかそんなんだったかな。

 「なんで黒神さんは俺と仲良くなったって思ったの?」

 「んー?なんでかなぁ僕はそう思ったっていうか、そうなりたいからかなぁ、桜の話だってさ、ついて行って君と思い出ができたら良いなって思ったしね…。」

 「言葉選ばないで言うなら変な奴だけど、なんかそこまで言われたら信用できるわ」

 「本当に選んでないね、でも敬語が抜けたからいーよ」

 黒神はヘラヘラと笑っていた。

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