22話

ということで、勉強合宿がスタートした。

「家主の白鳥がいないのに、おれ達だけで使うのも気が引けるよな」

 セバスチャンも白鳥に付いていて、夜にならないと帰って来ないし。

 白鳥家には空き部屋がいくつかあって、ホテルのような感じになっている。各部屋に風呂・トイレ付き。

 一部屋が無駄に広い。下手すると、そこら辺のホテルより豪華だ。

 おれ達は三人部屋で、それぞれにしっかりとベッドまで用意してあった。

「ベッドは、無駄にスプリングが利いてるし……」

 おれはシャワーを浴びた後、ベッドに倒れ込んだ。

 ……少々、疲れているのだ。

 勉強合宿の講師、烏丸先生が意外と厳しいのだ。

 午前は補講、午後から猛勉強というハードなスケジュールだ。

「高村君、寝る前に暗記科目をやるよ」

「おいおい、寝る前まで、ギッチリだな」

「逢坂君は、もういいや。明日、やろう」

 さすがの烏丸先生でも、薫の数学アレルギーには手こずっているようだ。

「もう、寝かせてくれよ。……おれはこのベッドで寝たいんだよ。おれの家のより何倍も寝心地良さそうだもん。白鳥のやつ、毎日こんなベッドで寝てるのか。羨ましいぜ」

「だったら、美和子と結婚すればええやん。毎日、このベッドで快眠やで」

 薫がとんでもないことをさらりと言った。

「……バカ言うな。おれは下僕の身だぞ」

 この身分にも、慣れちゃったぜ。

「分からへんで。プロポーズしてみたら、案外あっさりOKかもしれへんで?」

「ないないない、絶対にない。軽くあしらわれるだけだって」

 玉砕するイメージしか浮かばねえよ。

「ていうか、白鳥には烏丸の方がお似合いだって。アイツ、烏丸のこと、ベタ褒めだったもん」

「僕なんかに、白鳥さんは勿体無いよ」

「ご謙遜を……」

「僕は、君達が思ってる程、すごい人間じゃないよ」

 烏丸に暗い影が落ちたような気がした。

「あっ、そういえば、二人は修学旅行どうだったん?」

 薫が見事に話題を変えた。

「楽しかったよな」

 ありきたりな感想のおれ。

「厳島神社の鳥居が、ちょうど工事していて残念だったけどね」

「厳島神社か~。厳島神社といえば、平清盛が……(以下略)。わいもまた行ってみたいわ~」

「……逢坂君は、自分の好きなことは、かなり語る人なんだね」

 烏丸が少し呆れて言う。

 かなり話は変わるけど。

「そういえばさ、おれと白鳥が書いた悩み相談のポスターあったじゃん。あれ、掲示許可出してくれたのお前だったよな?」

「……あ、うん。そうだね。僕、生徒会だったからね」

 おれ達が一年だった頃だ。

 白鳥に掲示許可取ってこいと命令されたのだ。

「おれ、あの時、お前と初めて話したんだよな」


 おれと烏丸の初会話プレイバック。

「あのさ、生徒会の烏丸だよな?」

「ええっと、君は確か……。二組の高村君だよね」

「よく、おれの名前知ってたな」

「だって、あの白鳥さんのパシリの高村君だよね。意外と有名人だよ、君。……で、用件は何?」

「えっと、白鳥にこのポスターの掲示許可取ってこいって言われたんだけど。こういうのって、生徒会に頼めばいいんだよな?」

「うん。……悩み相談? 面白そうだね。掲示許可の判子、押しとくよ」

「ああ、ありがとな」

 以上、おれと烏丸の初会話シーンでした。


「でも、よくもまあ、お前もあんな怪しいポスターに掲示許可出したよな。何か、宗教団体の勧誘みたいだったじゃん、あれ」

 今は、少しマシになったけど。

 新学期に改良したのだ。

「まあね。でも、繁盛してるみたいじゃないか」

「金は取ってないけどな」

「美和子は金持ちやし。それに、良心からやってるだけやと思うで」

「『白魔導師は人を助けるのが仕事』って言ってたからな」

 知ってしまったら、助けなければいけない。

 本人が望もうと望まないと、助けなければいけない。

「……前、白鳥さんに『人の心はお金では買えない』って言ったことがあるけど。あれ、半分くらい嘘なんだ」

 嘘……。そうか、烏丸は……。

「上辺だけなら、お金で買える。悲しいけどね」

 元ホストだから、言えることなのだろう。

 その後は、おれも薫も黙ってしまい、流れ的に寝てしまった。

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