21話

次の日、補講の帰りに白鳥の病室に行った。

 烏丸も一緒だ。

 気が利く烏丸は、お見舞いとしてケーキを買っていた。

 また、比べられるんだろうなと思いつつ、病室のドアを開ける。

 そこには、セバスチャンともう一人、おれのよく知っている奴もいた。

「おっ、久しぶりやん、秀」

 ここで、やっと逢坂薫の登場である。

「ホンマ、待ちくたびれたで~。20話くらい待っとったんよ、わい」

「待たせて、すまんかったな」

「えーっと、彼は?」

 烏丸は薫とは初対面である。

「私の従兄妹よ。大阪に住んでいるの」

「わい、逢坂薫いうんよ。逢坂の関の逢坂に、『源氏物語』の宇治十帖の主役の薫と同じ字の薫や」

「僕は、烏丸凛だよ。よろしくね、逢坂君」

 烏丸はメモ用紙に「烏丸凛」と書いて、薫に渡した。

「よろしゅうな、凛。……字、上手いやん」

 生徒会書記を二期連続で務めてるからな。

「平安京の烏丸小路の烏丸に、凛然の凛か。ええ名前やね。凛って書くと少し女っぽいんやけど。まぁ、わいも人のことは言えへんけどな」

 凛も薫も女子っぽい名前だしな。

「そういえば、お前のとこは補講とかないのか?」

 おれ達の学校は進学校なので、全員強制補講である。

「ああ、補講はないよ。わいは数学の特別補習があるけどな」

「特別補習って?」

「数学で1が付いた人らが受ける補習や。でも、美和子が入院したって聞いて、補習どころじゃあらへん思うて、サボって来たんよ」

「……サボるなよ」

「先生にはちゃんと言うたんよ、従兄妹の見舞い行くから補習サボるて。そしたらな、先生、数学の補習プリント二十枚もくれはったんよ。こんなに貰うても、わい、やらへんのになぁ」

「やれよ。そんなんだから、1が付くんだ」

 プリントを見ると、平方根とか因数分解とか二次関数とか、中学の復習みたいなのだった。

「お前、よく高校受かったな」

「わい、推薦入試やったから。面接だけで受かったんよ」

「私は推薦ではなかったけれど、特に勉強することなく、高校に受かったわよ」

「僕も、あまり勉強はしなかったな」

「……この天才肌供が」

 おれなんか、一日十時間勉強した日とかあったぞ。

「薫、あなた、烏丸君に数学を教えてもらったらどう? どうせ、何日か泊まる予定でいるのでしょう」

「そのつもりやで」

 今度は薫がホームステイだ。

「では、高村君も含め、三人で勉強合宿でもすればいいわ。私の家の空き部屋を貸してあげるわよ」

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