4月1日(土)_デートの申し込み(※エイプリルフールじゃないよ)【トーク履歴10】
[くるる:じつは私]9:13
[くるる:七つ子だったの]9:13
[くるる:カイトくんが会ってたのは]9:13
[くるる:曜日ごとに違う私だったの]9:13
……………………
…………
……
[くるる:エイプリルフールでした……]12:02
[くるる:忘れて……]12:02
解人はスマホの通知音で目覚めた。
ぼーっとする頭で画面を眺めると12時を回っていた。
ウソをついていいのは午前中までというルールがあったような、なかったような。
「って、え!? やば寝すぎた!」
取り急ぎ、くるるに返信した。
[解人:七人もいたなんて]12:06
[解人:どうりで毎日新鮮な驚きを与えてくれるわけだ]12:06
解人は昨日の記憶を振り返るが、何時に寝たのかも覚えてない。
美奈のラスト出勤日ということでいつもより遅くまで働いたために、帰宅するのが21時を過ぎていたことだけは憶えている。
ご飯もシャワーも後ろ倒しになり、夜遅くまでスマホでゲームやら動画やらに触れていた気がする。
送ってすぐ、解人の腹が鳴った。
「……めし食うか」
解人は寝ぼけ眼をこすりながらリビングへ向かう。
朝食にありつこうとしたら母親の早苗に顔を洗って来いと追い払われたので、仕方なく洗面所へ。
鏡の前に立ち、なんとも冴えない顔つきの自分と相対する。見れば、寝ぐせもついていた。
誰に見せるわけでもないからいいだろう、と心の中で言い訳をして放置。
リビングに戻ると、寝ぐせは早苗のイジリの格好のえじきになった。
「あんたなにそのだらしない頭は」
「寝たから寝ぐせがついた。自然の摂理だろ」
「自然に抗って人間は成長してきたんでしょーが。だいいち、おサルさんだって毛づくろいくらいするっての。そんなんじゃモテないわよ」
「うるさいなあ。別にモテなくていいよ」
解人は唇を尖らせる。
家だとどうしても外よりズボラになってしまうのは自覚するところだった。だからこそ突かれると痛い。
モテ、いう言葉が胸をチクリと刺す。
寝ぐせは直した方がいいのだろうかと解人は考えてしまう。
「バイト遅かったのはおつかれさまって言いたいけど、どーせ夜更かししてたんでしょ」
「むぐ……」
「あんた明後日には二年生になるんだからね? 生活をしゃっきりさせないと成績だって落ちちゃうかもしれないわよ」
「勉強はちゃんとやってるだろ」
「解ってないな? 停滞は後退だかんね? 同じことをしてたら置いていかれるっていう──」
「母さん、この目玉焼きウマいよ」
遮るように解人が言う。
早苗は驚いた顔をしたが、にっこりと笑い。
「あらありがと~♡ って誤魔化されると思ったか」
「ちぇ。でもうまいのは本当だよ」
「ったく。はーあ。どこでそんなキザったらしいやり方覚えてくるんだか」
「子は親を映す鏡ってことわざがあってだね」
「パパはそんな軽薄な男じゃないっつーの」
「じゃあどっちに似たかは……いや、なんでもない。ごちそうさま」
「なんだこの息子かわいくね~~~~~~」
解人は皿を洗ってからキッチンをあとにする。
自分の部屋……ではなく、洗面所へとつま先を向けた。
再び鏡の中の自分とにらめっこ。
「…………」
母親に言われた『そんなんじゃモテないよ』という言葉が頭に残っていた。
モテないと言われると今の自分には耳が痛い。
誰彼構わず好かれたいわけじゃない。
けれど、好かれたい相手がいる。
解人は寝癖を直してから部屋に戻った。
スマホを見るとくるるからメッセージが返ってきていた。
[くるる:カイトくん~~~~]12:26
[くるる:すべったかと思って]12:26
[くるる:ちょうびびってた]12:26
[解人:ごめんごめん]13:15
[解人:爆睡してた]13:15
[くるる:疲れちゃった?]13:21
[くるる:昨日大変だったもんねえ]13:21
[くるる:私もすぐ寝ちゃった]13:21
[解人:ただの夜更かしっす……]13:21
いつもどおりのゆるいLINEは心地よかった。
けれど。
いつもと同じでいいのだろうか?
二年生になっても、このまま?
『停滞は後退だかんね?』という母親の言葉が妙に頭に残っている。
昨日、桜間さんは困ったように笑っていた。
『クラスが変わったら離れ離れだね』
バイトのシフトも被らなくなるかもしれないとは店長に言われていたことだ。
自分たちの関係はどうなるんだろうか。
接点が消えて、それでもくるると一緒にいられる未来はあるのだろうか。
と、新たに通知が届く。タップしてトークを開くと。
[剛志:驚け!!!!]13:26
[剛志:150キロ打てたぞ!!!!]13:26
[剛志:これならあのピッチャーの球も打てるわ!!!!!]13:26
以前二人で行ったバッティングセンターで自撮りをする剛志の写真も送られてきた。
「すげーなこいつ……」
手も足も出なかったというピッチャーに勝つために、今日も努力をしているという。
自分はどうだ?
解人の指は動いていた。
[解人:明日花見でもいかない?]13:27
[解人:高校生にもなってピクニックかよって感じだけど]13:27
二つ目のメッセージを送ってすぐ既読がつく。
解人の心臓が跳ねた。
[くるる:ちょっとちょっとカイトくん笑笑]13:27
[くるる:エイプリルフールは午前までだぞ笑笑]13:27
[解人:いやウソじゃないって]13:28
[くるる:え?]13:28
[くるる:マジのやつ?]13:28
心臓が激しく脈打つのが自分でも解る。
くるるが他人を嘲るような人間ではないと知っていても、聞き返されると冷や冷やしてしまう。
脈がないのだろうか。
訊かなければよかっただろうか。
逃げたくなる気持ちが顔をのぞかせる。
でも。
剛志とバッティングセンターに行ったときに決めたんだ。
バッターボックスに立ったのなら、狙うはホームラン。
つまり、交際だ。
そのためには自分からバッターボックスに立たねば。
[解人:マジのやつ]13:29
[くるる:ガチのやつ?]13:30
[解人:ガチのやつ]13:30
[解人:11:00に駅前で、どうすか]13:30
既読はつくが返信が来ない。
落ち着かなくって部屋の中をうろついてしまう。体感で数時間は部屋の中を彷徨っていた。
どう思っているんだろうか。
好意が筒抜けになってしまったのだろうか。
断り方を考えているのだろうか。
いやいや、単にLINEを開きっぱなしにしているだけかもしれないし。
様々な想像が頭を駆け巡り────
[くるる:受けて立つ!]13:36
なぜ決闘のようなリアクションなのか解らなかったが、OKということだろう。
くるるの春めいた装いを想像する。
それから、隣に立つ自分を。
「っしゃぁ……!」
解人は思わずガッツポーズをする。
春休み最後となる明日、くるるとデートをすることが決まった。
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