第3話 傷つく心

ティタンの寝息が聞こえ安堵する、三日でここまで憔悴するとは、余程傷ついたのだろう。


しかし続けてこんなに悪夢を見るとは、おかしな話だ。


しかも内容がミューズに関係のあることばかり、きっと何かあるに違いない。


夢の中とはいえ、ティタンを傷つけるのは許せなかった。






そっとティタンの手を外すと、ミューズは部屋を探る。


不審なものはないかと隈なく調べたが、特に変わったものはない。


「ミューズ……」

ティタンの呟きに、急いで駆け寄る。


苦悶の声と、表情を見てティタンの手を優しく包みこんだ。


「私はここにいます」

夢の中の自分は偽物だと伝えたい。


ティタンの手に力がこめられ、体が強張った。


「愛しているの。あなたの事を、誰よりも」

ティタンは苦しそうに表情を歪め、瞼が微かに動いている。


夢の中では今どうなっているのだろうか。


「きゃっ?!」

突然、腕を引っ張られた。


ミューズはティタンの上に覆い被さってしまうが、ティタンの両腕はそのままミューズにまわされ、離れられない。


離れようともがくが、体格と力に差がありすぎて動けない。


「愛してるんだ……」

穏やかな表情と、穏やかな声。


縋り付くティタンに身を委ね、目を閉じる。


「えぇ、私も愛してるわ」








暗い暗い闇の中、目の前のミューズはティタンを傷つける事ばかりを言う


『あなたと一緒になっても、王妃にはなれないもの』

ティタンは第二王子だ。


王位継承権はあるものの、王になることは恐らく、ない。


『顔立ちだって、エリック様はあんなにもキレイなのに、あなたときたら全く似ていない。私に相応しくないわ』

兄のエリックは確かに美しく、その容姿は多くの者から称賛されている。


白い肌に切れ長の目をしており、金髪翠眼のその美貌はまさに物語に出てくる王子様だ。


だが自分は違う。


同じ兄弟でありながら、肌は浅黒く、髪は薄紫で父とも母とも違う色だ。


お世辞にも整った顔立ちとは言えない容姿で、剣を握る手は節くれ立っている。


鍛えた体はミューズを余裕で隠してしまえるほど大きい。


女性に好かれるような容姿はしていないと自分でもわかっている。


それに比べてミューズは美しい。


豊かな波打つ金髪と幼さの残る可愛らしい顔立ち。


時に自分という婚約者がいるのにも関わらず恋文が来ているのも知っている。


ティタンが丁重にお断りを入れているが。


男性からも女性からも羨まれる美しさであるが、ティタンは特に彼女のオッドアイが好きだ。


ずっと見つめていたい程キラキラとしており、目が離せない。


「からかっただけよ、あなたを愛してなどいないわ。婚約者なんて、なりたくなかった!」

王命で結ばれた婚約だった。


悲痛な声とティタンを否定する言葉、ティタンは詰られるままだ。







夢と気づくまで、この会話はティタンにとって現実だった。


吐き出して楽になるのなら、ミューズに全ての不満をぶつけられても構わない。


しかし、本当は堪らなく苦しかった。


「ミューズ……」

返す言葉がない。


ミューズも辛いのだろうな。


こんな不甲斐ない自分が婚約者で申し訳ない。


いっそ、解放した方がいいだろうか?


婚約を解消する勇気はまだ出ない。


どんなに嫌われていても、ティタンはミューズを愛してるのだから。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る