第55話
メレアの身勝手な判断のせいで、私たちは城まで歩いて帰る羽目になった。その道中でも慌ただしく走り回る聖騎士団の人や近隣住民に聞き込みをする聖騎士団の人の姿が見えた。
毎日毎日過酷な訓練を積んでいるのにもかかわらず、やっているのは地味な仕事だ。もちろん、彼らのおかげで街の平和が保たれているのだけれど、ちょっとだけ複雑な気持ちになる。
「そういえば人減ったねー。最初に来た時はもっと聖騎士団の人いなかった?」
「そうですね。今街で作業をしている人たちは第3部隊の人ですね。最初に駆けつけて魔法を放っていたのは第1部隊の人ですが今はほとんどいませんね」
「へー、そうなんだ。確かに、あたしも魔王いないって分かった瞬間帰っていく人見たような気がする。サーラの話だとあの人たちが第1部隊ってこと?」
「恐らくですけど。顔見れば断言できます」
「え? もしかしてだけど、サーラって聖騎士団の全員の顔覚えてるの?」
「はい。同じ聖騎士団ですし」
メレアの質問に当然のように答えるサーラ。
私は聖騎士団の人数を知らない。多分、団員ですら正確な人数は知らないと思う。それなのに入団してまだ数日のサーラが全員の顔を覚えてるなんて。この記憶力はもはや才能だ。頭いいからって理由では片付けられない。
「うわー、さすが座学成績トップだっただけあるねー。あたし、興味ない人間の顔は見えないって呪いに掛かってるから」
「何、その都合のいい呪い」
「だって仕方ないじゃん。例えばさ、さっきすれ違った聖騎士団と駆けつけたときに最初に魔法を放った聖騎士団の体が入れ替わっても分からないじゃん。分かったところで、あたしたちの人生に何の影響も及ぼさないじゃん」
「……確かにそうだけど。ってか興味ない人間は見えないんじゃなかった?」
「あー、この呪い結構気まぐれでさ。ずっと『行けたら行く』みたいなテンションなんだよねー。困るよね、こういうの」
「私が困っているのはメレアに対してだよ!」
いつも通りの他愛もない話をしながら、いろいろな店をまわる。お金はメレアがギラルさんから半ば強引に奪ったものと、削ったかばんの予算の余りがあった。安い店なら全身の服を揃えられるお金を持った私たちは、行く店ごとで躊躇なく買い物をしていく。
城に着く頃には、私が入っていた旅行かばんの中が埋め尽くされてしまうほどお菓子でいっぱいになり、手持ちのお金もほぼ無くなっていた。
しかも途中から残金が少なくなってきたことに焦りだしたのか、メレアは聖騎士団の紋章が入った自作のバッチとお菓子を物々交換しようとしていた。「このバッチを店に飾っておくと聖騎士団お墨付きの店ってアピールできますけどどうですか? どのお菓子でもいいので交換しませんか?」とどの店でも懲りずに言い続けるメレア。その度に私とサーラでメレアを押さえ、苦笑いする店員さんに謝った。
武器取りに行ったときについでに持ってきたらしく、没収しても次から次へと出てくる。こんな物持ってくる暇があるんだったら、お金持ってくればよかったのに。
魔王との戦いで精神的な疲労も溜まっていたけど、城までの散歩とメレアを押さえる作業で肉体的な疲労も溜まっていった。
サーラもそうだけど、メレアは魔王と戦っている。いつものコートが噴き出した血で汚れるほど命がけの戦いをしたはず。それなのにメレアがご機嫌な理由が分からなかった。
城に帰ると、気まずい顔をしたギラルさんと私たちを睨む聖騎士団長に出迎えられた。聖騎士団の中で1番偉い人に出迎えられる、その光景と不穏な空気に私とサーラは黙って顔を見合わせる。
どうしよう。これ多分パーティーとか言ってられないやつだ。でも私たち悪いことはしていないよね? 魔王を食い止めて、精一杯みんながいる地区に被害を出さないように頑張ったし。その結果、1地区を吹き飛ばしてしまったけど、それは大目に見て欲しい。そもそも3人で魔王と戦うこと自体無理がある。それに魔王が姿を見せたのはルクスのせいだ。怒るならルクスを怒って欲しい。
「まず、魔王の襲撃を食い止めたことには感謝する。しかし、ギラルの話では特殊部隊はすぐに帰ってくるとのことだった。だから俺は魔王対策会議の時間をずらし、お前らの帰りを待った。今回の魔王の行動について詳しく聞くことで、最小限の被害で奴を食い止める方法を思いつく。そう判断して待っていた」
「「「……」」」
これ、完全に私たちが悪いやつだ。まさか、私たちが楽しんで(?)いる間に聖騎士団長が待ってたとは……
「さあ、どんな言い訳をするつもりだ? 考える時間はあったはずだ。聞かせてくれ」
迫力のある顔が迫力のある声でそう言った。私は新たな地獄が始まることを覚悟した。
長い長いお説教が始まり、私たちは直立で話を聞いた。聖騎士団長の隣に立っていたギラルさんもいつの間にか私たちの隣に並び一緒にお説教を受けた。早く終わらないかなと思いながら、掃除された綺麗な床をずっと見つめていた。ときどき視界の端に使用人さんや聖騎士団の人が入る。反射的に見てしまいそうになるけど、見てしまったら怒られる。それに最悪の場合その人も私たちの横に並ばされて一緒にお説教を受けるような気がした。
お昼ご飯の時間を少し過ぎたくらいに帰ってきたはずなのに、お説教が終わる頃にはおやつの時間も過ぎていた。部屋に戻った後も、しばらくどんよりとした空気が部屋の中を流れる。全員椅子に座り、誰も何も言うことなく時間だけが過ぎる。時計の秒針が動く小さな音ですら私たちは苛立ちを覚えていた。
「うわぁー!」
ついに限界を迎えたメレアが立ち上がって発狂する。そして私たちを見ながら口を開いた。
「もう、ムカつく! サーラ、お茶持ってきて! お疲れ様パーティーじゃなくて愚痴大会始めるよ!」
「はい! 分かりました!」
「そうだよ! こういう時こそお菓子だよ!」
魔王との戦いのせいか、共通の敵が出来たせいか、私たちは今までに無いほど一致団結して準備に取りかかった。サーラはティーセットを取りに使用人部屋に、私たちは大きい机を持ってくるために適当な客間から大きめの机を運び出してきた。
ここが学校なら絶対男子に頼んだけど、今は何も気にすることはない。無駄にハイテンションになった私たちは顔を真っ赤にして奇声を上げながら机を運んだ。
机の真ん中にお菓子をぶちまけ、サーラが持ってきたティーセットをそれぞれが座る位置に置く。全ての準備が終わり、私とメレアは席に着く。
気がついたらお疲れ様パーティーという名の愚痴大会は始まっていた。
疲れのせいかみんなヒートアップして、普段大人しくて真面目なサーラですら例外じゃなかった。愚痴に悪口が重なり笑いが生まれる。それは綺麗とは言えないけど、私たちの絆が深まるいい機会だった。
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