第40話
「うん。私は準備できた。立ち上がるとき言ってね」
「は、はい。では立ちます。よっと」
私を背中に乗せたサーラがゆっくりと立ち上がる。ルクスが帰った後、謎の対抗心を燃やした私はメレアの作戦に乗ることを決意した。と言ってもサーラでも流石に振り回すのは無理だと考えた私は一度おんぶしてもらうことにした。
子供の頃はよくおんぶしてもらっていた。でも私も大人になったし、私の場合は横にも大きくなったから、おんぶされる機会なんてもうないだろうと思っていた。これでサーラが立てなかったらどうしようと思っていたけど、ふらつく様子はない。それどころかサーラの背中は不思議と安心感があった。
「乗り心地はどうですか?」
「うん、大丈夫。そっちこそ重くない?」
「大丈夫ですよ……」
口では大丈夫と言うサーラ。でも声が明らかに苦しそうだった。
「戦いの時のみ、この状態になるのですね?」
「戦いっていうか、ネムが寝たらずっとこの状態になるかな。ネム、寝るのは一瞬だけどなかなか起きないから」
「……つまり戦いが終わった後も、しばらくこのままというわけですか?」
「うん、そうだね」
「ごめん、サーラ。やっぱり重いよね」
私は今まで眠りの魔法だけを凄く練習してきた。どの魔法が短時間で眠れるか、どの魔法が深い眠りにつけるか。消費魔力、魔法陣の種類。いろいろ勉強してきた。でも、起きる方法だけは一切勉強してこなかった。
だから、いざ実践が始まれば最悪半日くらい私はお荷物になる。
「まあ、本当に運ぶの疲れたらその場に置いていいよ。放置しても誰1人として攻撃を加えることなんて出来ないし」
「もしかして私だけ置いて帰るってこと?」
「そうだよ。だってネム最強じゃん。あ、でも安心して。3日後くらいには迎えに行くから」
「安心できないよ! 私たち同じ部隊じゃん! 仲間じゃん!」
「けどさ戦いの途中で寝る人に言われてもさ」
「あんたが考えた作戦でしょうが!」
私の声が静かな森にこだました。
その後、私たちは目撃情報があった場所へと向かった。結局、帰る時も私を置いて行かないことを条件に私は戦いのギリギリまで寝ないことを約束した。なんだか凄くバカな約束をした気がするけど、気付かないフリをした。
「にしても見つからないねー」
先ほどから私たちは地面を見ながら歩いている。フォーチュンフィッシュはただ空中を泳ぐだけで鱗を地面に落とす。そのため地面を見ながら歩かないとトラップ魔法が発動するし、逆にそれを辿ればフォーチュンフィッシュに遭遇するかもしれない。
鱗は手のひらより少し小さいくらいの大きさで、真珠のように白いので草原に落ちていればすぐ見つかる、はずだった。
「本当にここなの? 目撃したのってルクスでしょ? あいつなら間違った情報を伝えてるかもよ」
「ネムって本当にルクスくんのこと嫌いだよねー」
「最初はカッコいいと思ってたけど、今は無理。ああいうのは遠くから見るのがベストだよ」
「などと容疑者は述べています。これについて解説のサーラさん、どのようにお考えでしょうか?」
いつも通りのテンションでメレアはサーラに話を振る。私はメレアと付き合い長いから耐性はある。でも付き合いの浅いサーラはどうしていいか分からずあたふたしている。
「もう。サーラ可哀想でしょ」
「いいじゃん、いいじゃん。初めての討伐なんだしさ、もっと楽しんでこうよ! で、サーラさんはどのようにお考えでしょうか?」
「……本人のいないところで悪口はいけないと思います」
まさかの発言に、その場の時間が止まる。
「ぷっ、あはははっ! そうだね。悪口はいけないよねー」
「……今の一言で私たちの心がいかに汚れているかわかった気がする。あ、でも待ってよ。そんな心の綺麗な子が、私を盾にして攻撃するなんてことしないよね」
「何? 今さら悪あがきですか? さっきのルクス君に対する怒りはどこにいったのですか?」
私の考えに気づき妨害をしようとするメレア。しかし、そんな声を気にもせずサーラは顎に手を当てて考える。
「……そうですね。やはり、あの作戦はネムさんを雑に扱いすぎていますね」
「サーラ、よく考えて。ネムが1人犠牲になると3人が助かる。ネムを犠牲にしないとと3人が助からない。1と3どっちが大きい?」
「それは……ひっ!」
「流されちゃダメだ! 頑張れ! そうだ! 私の家パン屋だよ。私を助けたらパン食べ放題だよ!」
「ピー! ルール違反です。親の力使いました。よって反則負けです」
「反則負けとかありませんー。ルール嫌いなメレアにルール違反とか言われたくないですー」
「あ、あの!」
手を震わせながらサーラは空中を指差す。何だろうと思いながら私たちはサーラの指差す方を見た。するとそこには白い鱗を纏った巨大な細長い魚が宙を泳いでいた。すぐにその場にしゃがみ込むけど、もう手遅れだ。
私たちを視界に入りながら同じところを何度も泳いでいる。私たちの声に反応してやってきたのかな。
体をくねらせたびに少しずつ鱗が取れ、緑色の草原に落ちる。だが、話に聞いていた通り取れた側から新たな鱗が生えてくる。
このまま何もしないと一面トラップだらけになってしまう。早く戦わないといけないのに、どうしても恐怖が勝ってしまう。
「メレアどうする?」
「とりあえず地面に落ちた鱗を割らないと。サーラ、この石全力で投げてくれない?」
「はい」
いつの間に拾ったのか、メレアはポケットから出した大量の小石をサーラに渡した。サーラはゆっくり立ち上がり、渡された小石をちからいっぱい投げた。すると風を切る音がした直後、フォーチュンフィッシュがいる近くの地面が音を立てて光った。
「雷か。うん、その感じでどんどん投げて」
地面から出た雷に驚きながらも、サーラは次から次へと石を投げる。
石が地面の鱗に命中するたび、爆発や雷、氷といった様々なトラップ発動する。トラップが発動するたびフォーチュンフィッシュは地面に目をやるが、特に慌てる様子もなく優雅に宙を泳ぐ。
「全部投げました」
少し息を荒げながらもサーラはは報告する。
大量のトラップが発動したせいで緑色だった草原はそこにはなかった。雷で焦げた地面や爆発で草が吹き飛ばされた場所、謎の氷解ができた場所など。さっきまでの景色とは別物になっていた。
「爆発、雷、氷。多分炎もダメだね」
「……思ってたより多いね。あいつの言っていたことも正しい可能性が出てきたね」
属性によっては魔法が効かない。その噂は聞いたことがあった。でも、まさかここまでとは。
目の前にいるのは私が知っているフォーチュンフィッシュよりずっと強い。正直メレアがいるから魔力回復すればこっちの勝ちと思ってたけど、これじゃメレアの魔法も効かないかも知れない。
……じゃあ、あいつはどうやって倒すの? 鱗のせいで物理攻撃はできない。私が寝た状態で鱗を割れば倒せるかもしれないけれど、寝ている私を空中に漂う魚にぶつけられるわけがない。魔法も効かないのが多いし、メレアの魔力だって回復に時間がかかる。
ここは一旦距離をとって、魔力を回復するのを待った方が賢いかもしれない。
「メレ――」
「ネム、サーラ。準備はいい?」
真っ直ぐに私たちを交互に見つめながらメレアは言った。その顔はいつもより凛々しく感じた。
「メレア、本当にやるの?」
「もちろん! だってあたしが選んだメンバーの初仕事だよ。それにルクスを見返すにはこれくらいの条件がちょうどいいでしょ?」
「……うん、そうだね!」
「サーラ。今回の鍵になるのはサーラだよ。細かい指示は始まってするから。ネムのこと頼んだよ」
「は、はい!」
「さーてと」
手についた汚れをパンパンと払いながらメレアは立ち上がった。それにつられる様に私たちも立ち上がる。
「ここからは、あたしたちらしく行くよ!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます