第36話
「え? え? え?」
理解できないことが多すぎて少しパニックになる。
この人が特殊部隊の最後の1人? そもそも、この人って本当に人間なの? もし人間ならメレアには最初から見えていたはず。だったら何で最初に私が部屋に入った時に紹介してくれなかったの? それにずっと頭をずっと下げていた理由も分からない。
「おー、いい感じに混乱してるねー」
「混乱くらいするよ! これだけ訳分かんないこと、いろいろあったら!」
「申し訳ございません! 私のせいでたくさんご迷惑をおかけしてしまって」
「いえ、サーラさんは謝らなくていいですよ。全てはこのメガネが悪いんですから」
「えー? 誰のことー?」
「コラ! そこメガネを外さない!」
こんな風にぐだぐだな感じで私たち特殊部隊の顔合わせが始まった。
まず特殊部隊は国の周辺に出現する特殊な魔物を討伐するために作られたらしい。今までは国の周辺に現われた魔物は冒険者たちにクエストという形で討伐してもらっていた。しかし魔王の襲撃以降、今までに確認されなかった特殊な魔物の出現率が上がった。中にはクエストに出来ないほど強い魔物が存在しており、冒険者が討伐することは許されていない。そこで冒険者の代わりに魔物を討伐するのが私たち特殊部隊だそうだ。
「で、サーラ……さんは使用人の前は何をしていたんですか?」
「呼び捨てでいいですよ。この部隊では私が一番年下なので。それに敬語を使わなくていいです」
「そうだったんだ。背も高いし雰囲気もあったから、てっきり年上かと。ということは使用人の前は学生?」
「はい」
「ちなみに魔法は得意?」
「すみません、ほぼ使えません。その代わり座学は1番でした」
「あー、座学で実技をカバーするタイプね。ネムと一緒じゃん」
「私はカバーしてギリギリ合格できるレベルだったけどね」
この部隊は前提として冒険者たちより強くないといけない。メレアは魔法が使えるし強いからいいけど、私とサーラは魔法が得意じゃない。私は寝れば最強になれる。でも攻撃技が1つもない。しかも動けないから完全なお荷物になる。
サーラは知識はあるけど魔法が使えないなら後衛に回った方がいいのかも知れない。この部隊メレアの負担が凄い。よくこんなメンバーで部隊組もうと思ったね。
「そうだ! ネムはサーラの凄さを知らないんだよね」
「あ、ちょっと! それは……」
メレアの言葉にあたふたするサーラ。
急にどうしたんだろう? 止めた方がいい気もするけど、純粋に『サーラの凄さ』ってものを見てみたい。ごめんね、サーラ。後で何かしてあげるから。
心の中でサーラに謝ってから身を乗り出す。今ならメレアの気持ちがよく分かる気がする。
「聞きたい、聞きたい! 何? 教えて!」
「実はネムはすでに知ってるよ。と言うか持ってる」
「持ってる? それってどういう……あ!」
メレアの言葉に一瞬動きが固まるも、すぐに答えは出た。すぐにポケットを探り、中から『それ』を取り出す。
「これ、サーラがやったの?」
折れたノブをサーラに見せる。するとサーラは顔を赤くしてうつむいてしまった。
「ちなみに、さっき片付けたティーセットも全部だよ」
「本当なの?」
「……はい、昔から力加減を間違えることが多くて。特に緊張していると全身に力が入りすぎてしまいます。それで今日も扉のノブとティーセット一式を破損してしまいました。もっと早くにその事をお伝えするべきでした」
「もしかしてだけど、ずっと頭を下げてたのって」
「はい。まずは謝罪からだと思いまして……」
「そういうことか。ずっと頭下げて動かないから幽霊かと思った」
「私なんかが『英雄』のネム様にお声がけするのは失礼かと思いまして。ひたすら頭を下げていました」
「ちょ、様付けなくていいよ! そんな呼ばれ方したら私も気が抜けないし」
私に対して様付けしてくるサーラに慌てて伝える。寝ていただけの私を『英雄』呼ばわりされるだけでも少し心が痛いのに、様付けまでされたら罪悪感で潰れそうだ。
にしても、ずっとあの姿勢のままだったんだ。私たちが出て行った後もずっと。真面目なのは伝わったけど、真面目すぎるというか。もはや真面目かどうかも分からなくなってきた。それに金属で出来たノブを壊すって……力強すぎでしょ。
「で、何?」
視線が気になって声をかける。私の視界にはさっきから私とサーラのやり取りをキラキラした目で見つめるメレアが入っていた。すぐ飽きると思って放置していたけど、いい加減鬱陶しくなってきた。
「凄くいい子でしょ?」
「う、うん。いい子だけど」
「この前、この子が使用人クビになりそうだった時に偶然通りがかってさ。それで拾った」
「拾ったって……動物じゃないんだから」
「でも、本当にこっちまで悲しくなるような怒られ方してたんだから」
「そうなの? そもそも何で怒られてたの?」
「お皿割ったからです」
あー、よくあるやつか。でも、お皿くらい人生で1度くらいは割るものじゃん。それも掃除や料理とかの仕事量が半端じゃない使用人さんなら、焦ってうっかり落としてしまうこともあり得る。良いお皿使ってるんだろうけど、失敗くらいなら誰にでもあるのに。
「でも、割れ方も普通じゃなかったよね」
「はい。洗い終わったお皿を拭いてる際に力が入りすぎて。それで真っ二つに」
「真っ二つ?! お皿を手で割ったの?」
「はい。割ったと言うより折ったと言う方が正しいかも知れませんね。これまでにも何度か折ったことはあったのですが、その日はベテランの方と一緒で。つい力が入りすぎて3枚連続で折りました」
なるほど。この子も問題児か。しかもこの子は悪気無くやっている。だからこそメレアより立ちが悪い。
これが新たに結成された特殊部隊のメンバーか。魔法は使えるけど頭の狂った問題児と力は強いけど加減が出来ない問題児と防御が最強になるけど一切動けなくなる問題児。このメンバーで冒険者に倒せない魔物を討伐するなんて考えられない。結成初日だけど、もう不安で頭がいっぱいだ。
でも特殊な魔物の出現率が上がったからといって、実際冒険者が倒せない魔物なんてなかなか現われるはずがない。どうせ心配だから作ったけど、特に何もしないまま時間が過ぎて「あれ? この部隊って何のためにあるんだっけ?」みたいになるはず。それに魔物が現われたとしても3人だけで倒すなんてあり得ない。きっと他の部隊からも応援が来るはず。
「あ、そうだ。明日記念すべき最初の討伐あるから。今日は早く寝てね。ちなみに初めてってことで討伐に参加するのは、あたしたち3人らしいよー」
息を吐くようにさりげなく言うメレア。その言葉に私の淡い期待は完全に打ち砕かれた。
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