第34話
「本日より第1、第2、第3部隊に続き特殊部隊を結成する!」
ステンドグラスから差し込む光が甲冑を照らす。屋根を支える左右対称の柱はその1本1本に美しさを感じる。外から見ても神聖さを感じるけど、中に入るとより一層神聖さを感じる。
そんな聖堂の中に集められた聖騎士団の人たち。さっきまで静寂に包まれていた聖堂も聖騎士団長の言葉のせいで、ざわめき始めた。
「おほん!」
わざとらしい咳払いが聖堂内に響く。再び聖堂の中が静寂に包まれた。
「特殊部隊の構成人数は3人。1人目は魔王を追い払い、先日の爆弾騒ぎで爆発を防ぎ、犯人を撃退した英雄、ネムだ。彼女には特殊部隊の隊長を務めてもらう」
団長の言葉に整列している団員が一斉に私の方を見る。多分こっちを見ていたのは、ほんの一瞬だったと思う。けど、その視線に耐えられず下を向いてしまう。
何で私が隊長なの?! 私そういうキャラじゃないし! この隊メレアが作ったんだからメレアが隊長やればいいでしょ! 私、入団してから10日くらいしか経っていないのに! ルクスでも数年かけて隊長になって、それでも周りから反感買っているのに。私みたいなのが10日でなったら、この先どうなるか分からないじゃん!
半分涙目になった顔を隠すようにうつむきメレアを呪う。
「そして、2人目は――」
「はぁい♪ ごきげんよう、無能ども~」
前方からとんでもない挨拶が聞こえてきた。さっきまで痛いくらい感じていた私に対する殺気が急に消えるのが分かった。どこか聞き覚えのある声だと思いながらゆっくり顔を上げる。
するとそこには私の親友が立っていた。
「聖騎士団より強い問題児、メレアちゃんだよー! うんうん、みんな凄い目だねー。殺気がここまで伝わってくるよ。さーて、今日はお近づきの印として特大魔法を――」
メレアが手を前に出した瞬間、聖堂内に風が吹いた。見ていたのに、速すぎて何が起こったのか分からなかった。気付いた時には聖騎士団長がメレアに斬りかかっていた。それを華麗に魔方陣で受け止めるメレア。多分さっき吹いた風は剣を防いだときに出た衝撃で起こったんだろう。
にしても、よく防御出来たと思う。もともと何の魔法を使おうとしたか知らないけど、聖騎士団長が剣を抜いた瞬間に防御魔法に切り替え防御する。しかも、衝撃で風が吹くほどの威力の剣を止めるなんて。前から強いってことは知っていたけど、まさか聖騎士団のトップの人の攻撃を防げるとは思っていなかった。聖騎士団より強いって喧嘩売ってたけど、実力は本物みたい。
「活気があるのはいいことだ。だが、ここは神聖な場だ。魔法を使うのはあまり褒められたことではないな」
「へー、剣を振り回すのはいいんだ」
両者動くことのないまま、背筋が凍るような時間が過ぎる。お互い顔は笑っているけど、目が笑っていない。2人までの距離は充分あるのに自分まで殺されそうな気持ちになる。そのまま地獄のような時間がしばらく続いた後、聖騎士団長は剣を引いた。それを確認したメレアも魔方陣を解除する。そして聖騎士団長に背を向け歩き始めた。
静まりかえった聖堂にメレアの足音がやけに大きく響いた。
整列する聖騎士団の間を縫うように進み、私の後ろにメレアは並んだ。
本当はメレアが並んだ瞬間に色々文句を言ってやりたかったけど、下手に目立つと私の首まで飛んでしまうような気がした。メレアにはいつも振り回されてばっかりだ。思いつきで行動する性格は嫌いじゃないし、むしろ今まで何度もその性格に救われたことがある。だからこそ、メレアのことを心配してしまう。こういう時くらいは周りの空気を読んでほしい。
「では特殊部隊の3人目だが――」
そうだった。メレアが無茶をして製ですっかり忘れていた。まだ3人目の発表があるんだった。にしても誰だろう? 個人的にはギラルさんがいいな。頼りになるし、メレアの扱いにも慣れている。何が起こってもルクスなんかより力になってくれるはず。でもギラルさんって第3部隊の副隊長だったよね。私も一瞬とは言え第3部隊の隊長だったし、引き抜かれるなら第1か第2部隊からかな。どっちにしてもルクスよりマシだったらいいや。
「3人目はこの場にいない。後日改めて発表する」
ん? この場にいない? 今日の集会は全員集合だったよね? それなのに、いないってことあり得るのかな? もしかして聖騎士団じゃない人とか? もしそうだったら大変だ。いきなり聖騎士団に入団した人がいきなり特殊部隊に入れられたら……まずメレアの扱いに困ると思うし、具体的な業務は分からないけど戦闘系だったら、その人に頼りっきりになりそうだ。メレアは1人でも戦えるけど私は寝ないと最強になれないし、なったとしても1歩も動けない。どうしよう。まだ3人目に会ってないけど、迷惑をかける未来しか想像できない。
「先日の襲撃や昨日の爆弾の券など隣国から様々な攻撃を受けている。皆一層気を引き締めて業務に取り組むように。では解散!」
聖騎士団長がそう言うと団員は一斉に振り返り、急ぎ足で出口へと向かう。それにつられるように私も出口に向かう。
やっぱり、連日攻撃を受けていることにみんな危機感を感じているんだろう。ところでシンさんと弟はどうなるのかな。シンさんはしばらく牢屋の中にいてもおかしくない。でも、弟の方は未遂で終わっている。カルネドの話だと弟はシンさんを助けるために、あんな行動をしたって言っていた気がする。罰は下されると思うけど、そんなに重くはない気がする……って、あれ?
聖堂を出て自分の部屋に戻る途中で、頭の中にある可能性が浮かび上がる。
聖騎士団長が言っていた3人目ってシンさんの弟とか?
あの子は聖騎士団員じゃないから、集会に参加していなくても不思議はない。それに聖騎士団に入団する手続きで手間取っているなら後日発表するのも納得がいく。
「……それはないか」
あまりにも可能性が低すぎる話に自身でブレーキをかける。
だって寝ていないと何も出来ない一般人と奇行を繰り返す変人と国を爆破しようとした少年だよ。こんなので部隊が成立するわけがないじゃん。最後の1人は普通に実力がある常識人じゃないと困る。
そんなことを考えながら部屋へ向かう。そして扉を開けようとノブを回した時だった。
ガチャン
それほど力を入れたつもりはなかった。しかし、扉に付いていたはずのノブはそこにはなく、代わりに私の手に握られたままだった。
「え?」
右手に握られた物をまじまじと見る。だが、いくら見てもそれはさっきまで扉に付いていたはずのノブだった。
「……私、壊した?」
血の気がサッと引くのを感じた。
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