第29話
手当たり次第に人の多そうな場所を見て回る。最近できたカフェ、昔からある美味しいご飯屋さん、綺麗な街並みを一望できる場所など思いつく限りの場所を巡った。
しかし、どこも人が1番多い時間帯らしく人混みの中を歩くだけで体力が奪われていく。
カルネドから聞いた話だと、シンさんの弟は人が多くなる時間帯を狙っていた。
だから絶対どこかにいるはず。ボロボロの服を着た、手首にアザがある男の子が。いたらいやでも目立つのに、どうして見つからないんだろう? 候補の場所が潰れるたびに苛立ちが増していく。聖騎士団の人たちに手伝ってもらえたら少しは楽になる。でも、いつも見回りをしているはずの聖騎士団の姿はなかった。
そういえば、昨晩の襲撃の後片付けのために、団員のほとんどが襲撃のあった場所に行っているとルクスが言っていた気がする。
となると、私がシンさんの弟を発見したとしても、誰の力も借りる事はできない。今回は私1人で無力化させて、爆弾を回収して、降伏させなければいけない……果たしてそんなこと今の私にできるのかな?
「……嘘でしょ?」
私が知る最後の人が多い場所にたどり着いた。しかし、ここにもシンさんの弟の姿はなかった。
壁に手をついて荒い呼吸を整える。今日は過ごしやすい気温だったはずなのに、背中まで汗でびっしょりになって服が背中に張り付く。
時間がないのは分かっている。でも、もう他の場所が思いつかない。
……待って、もしかして全然違う場所にいるとか? そもそも超強力な爆弾だったらわざわざ人の多い場所に行く必要はない。爆破の届く範囲にいれば、人目を避けられる。それに1回の爆発で複数の人の多い場所を破壊することができる。
もう……こうなるんだったら、どれくらいの威力なのか聞いておけばよかった。
でも本当にそんな強力な爆弾を出すとのかな? いくら子供相手でも、初対面の人に強力なブースト剤や爆弾を持たせるのはリスクが高い。
もしもその子が狙っているのが私たちの国じゃなくてカルネドだったら? 自分で作り出したものなら防ぐ術はあるんだろうけれど、それでも重症可能性はある。そんな危ない事する通するのかな? というか本当にそんな男の子にいるのかな? 私が焦って走り回っているところを見て楽しみたいだけじゃないのかな?
ダメだ、全部怪しくなってきた……
『ハロー! ネム』
突如頭の中に声が聞こえた。すぐに壁に手をつくのを止め、周囲を見渡す。しかし人はいない。
何これ? 普通の声じゃない。それにこの声って――
「カルネド?」
『正解ー!』
「どうしたんですか?」
『ようやく例の少年が決心してくれてさ。知らせておいた方がいいかなーって思って。多分そろそろパニックが起こるよ』
「ちょ、ちょっと待ってください! 今どこにいるんですか?」
『城から1番近い商店街の裏通り。そこで少年が爆弾持ったまま震えてたから、勇気付けてあげたんだ。君なら出来るよって』
城から1番近い商店街。ちょっと距離があるけれど、走れば爆発に間に合うかも知れない。いやそんなことより……
「勇気付けていたってどういうことですか?!」
『そのままの意味だよ。せっかくお兄ちゃん助けに来たのに、あと1歩踏み出せないでいたからさ』
「だったらどうして私に場所を教えるんですか?!」
『ネムも少年探しで困ってるみたいだったから』
……そっか。この人が困っている人なら誰でも助けるんだ。それが人を守ろうとする人でも、人を殺そうとする人でも。そこに正しさなんてものはない。人を救い、時に災いをもたらす最凶の魔女。
私が聞いた話は間違っていなかった。
「本当にカルネドなんですね」
『そうだよー。何を今さら』
「わかりました。私もそっちに行きます」
そういうと頭の中に響てきた声が消えてしまった。
とにかく、早く行かないと。
すぐに目的地に向かって走りだした。カルネドは強力な味方で強力な敵だ。多分さっきの頭の中に流れてきた情報は正しいと思う。けど、現場に着いた私に対して何か妨害をしてくる可能性だってないわけじゃない。最新の注意を払って爆破防がないと。
目的地に近づくにつれて騒ぎが大きくなっている気がした。まだ爆発音は聞こえていない。それなのに野次馬らしき人たちが多くいた。
どうしよう。商店街の入り口まであともう少しなのに。人が邪魔で通れない。
『ネム、そこは人がいっぱいだから裏通りに入って。それから3番目の角を左に曲がれば商店街に戻れるから』
「ありがとうございます」
『それと、転ばないように気をつけて』
「え?……はい」
転ぶ? 裏通りにいろいろ物でも分かれているのかな? けど、あらかじめわかっていたら大丈夫だ。
カルネドの言ったとおり裏通りに入る。商店街の入り口ほどじゃないけれど、裏通りにも人がいた。人を避けるように裏通りを進み3番目の角を曲がる。するとカルネドの言ったとおり無事商店街に入れた。
商店街の入り口を見ると、聖騎士団の人が市民を入らせないようにしているのが見えた。
あれ? 確か襲撃の片付けに行ってるんじゃなかったっけ? もしかしてもう終わったのかな? だったら私が駆けつける必要なかったんじゃ……
振り返り少年がいるであろう場所を見る。するとそこにも数名の聖騎士団の人がいた。もうすでに全部終わったのか、団員は人だかりの後からずっと前の様子を見ているだけだった。
ちょっと残念な気持ちになりながらも、人がばかりの方へと足を進める。
あれ? なんだろう? なんだか変な感じがする。
近づくにつれて、さっきまでなかった違和感が覚え始めた。それでも足を止めることなく前に進む。しばらくしてその違和感の正体に気づく。
それは聖騎士団の位置だった。
本来なら市民を守るために聖騎士団は市民より前にいないといけない。でも、市民より前に立っている騎士の姿が1つもなかった。そしてもう一つ、目の前に聖騎士も合わせて20人くらいいる。その全員が先から人形のように身動きひとつしていない。
やばい。これ以上近づいたらダメなやつだ。
そう思ったときにはすでに遅かった。
前に出した足は地面にくっついたまま固まる。踏み出そうとした足は膝が曲がった状態で固まってしまった。
転ぶ! そう思った私は手を使おうと両手を動かす。しかし、それも途中で動かなくなり、中途半端なバンザイの形で固まってしまった。前傾姿勢だったのでその状態で立ち止まることもできず受け身も取れないまま地面に激突する。動かない体にゆっくり痛みがはしる。
……そういうことか
カルネドが言っていた意味がようやく分かった。
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