第28話
「ネムの好きな食べ物は?」
「普段は何してるの?」
「お休みの日は?」
「どんな服が好き?」
「好きな子はいる?」
この公園は住宅地からも近く広いので、幅広い年代の人たちがここを訪れる。みんなが楽しそうにそれぞれの時間を過ごしているなか、私だけがイライラしていた。
突然始まったカルネドの質問のラッシュ。その質問から何かしら話題に発展するわけでもなく、ただ次から次へと質問を投げつけられる。もはやこれは会話と言うより尋問に近いような気がした。
質問の嵐が終わると今度はカルネドが1人で話を始めた。
最近この周辺で体験した話、過去に別の国で遭遇した出来事、カルネドが編み出した魔法を発動しようとして大失敗した話。その他にもいろいろな話をしてきた。
ただ、どの話も退屈でお昼ご飯を食べ終えたばかりの私には苦行だった。私VSカルネド&睡魔。2対1の状況で私はよく頑張ったと思う。
「ふわぁー、やっぱり親友とお話しするって楽しいね」
大きく伸びをしながらカルネドは言う。
私がカルネドと親友になんかなっていないし、この会話(?)だって楽しいと思わなかった。私も出来るなら一刻でも早くこの場を去って、買い物の続きをしたかった。でも永遠に話し続けるカルネドを前にして、どのタイミングで帰ればいいのかわからなかった。
「でも、まさかこの国に戻ってくるとは思わなかったよ」
「……戻って来なくてよかったのに」
「ん? 何か言った?」
「いえ、何も」
「それで、どうしてここに戻ってきたんですか?」
「ネムの願いを叶えた後、隣の国行ったんだよ。でも、そこでも私に願いを言う人がいなくてさ……このカルネドを目の前にして何も言わないなんておかしいよ。もしかして私が高貴すぎるからダメなのかな?」
「……そうですね」
「でもついに昨日の夜? 夕方? 明け方? どっちでもいいけど、私のところに1人の男の子が来てね。隣の国に行きたいって言ってきたんだよ」
やっと自分を頼ってくれる人が来たのに。せめて夕方か明け方か、どっちか覚えておいたらいいのに。この2つじゃ結構時間違う気がするけど。
それにしても、その男の子は勇気があるな。そんな暗い時間に幽霊みたいな女性を訪ねるなんて。私だったら怖くて無理だ。
「さすがに私もネムたかったから、明るくなったら来てって頼んだ。それで、一旦家に帰ってもらった」
「……帰したんですか?」
「だって夜に来ても意味ないじゃん! お店だって閉まってるし。どうせなら明るい時に来たほうがいいじゃん!」
「……」
「でもそのかわり追加お願いも聞いてあげたから。1人につき1個の願いしか叶えない私が、2個も願いを叶えたんだよ! むしろ感謝して欲しいくらいだよ!」
「それで、明るくなってからその子この国に連れてきたってことですか?」
「まぁね。その子が人が多くなる時間帯までに準備したいって言ってたし。作業するなら明るい方が良いでしょ?」
「それって密入国じゃないんですか?」
「大丈夫! 私は普段密入国しかしないから!」
人がたくさん集まる公園でとんでもないこと言うカルネド。早いところ逃げた方がいいかもしれない。うん、カルネドとは話も1段落した頃だし。そろそろ私は買い物を再開しよう。多分このタイミングをのがしたら、またしばらく動けなくなると思うし。
「じゃあ私もそろそろ――」
「あ、ちょっと」
立ち上がろうとした瞬間、腕をカルネドに掴まれた。腕も体も細いのに簡単に振り解けないほど力が強かった。不思議と全身に力が入る。
「どうしましたか?」
「私今その子を探してるんだよね」
「はぁ……」
「ネムにも探して欲しいなーって」
「で、でも、私もそろそろ城に戻らないとダメだし。それに――」
「ヒント1」
「いきなり何ですか? クイズならまた今度――」
「聞いて」
輝きのない瞳でじっと私を見つめ、静かそう告げるカルネド。がらりと変わったその態度に思わず背筋が伸びる。
「ヒント1。その男の子の目は充血していて全身から疲労感を感じた」
その子もしかして寝てないのかな? よほど切羽詰まった状況だったのにカルネドが返したから。最初に来た時に願いを叶えてあげればよかったのに
「ヒント2。その男の子はボロボロの靴にボロボロの服を着ていた。首や腕や足には妙なアザがあった」
「……なるほど」
「ヒント3。隣の国には孤児を拘束して躾し、犯罪の道具として育てる所がある」
聞いたことがある。ひどい仕打ちを受けるせいでアザが一生残ってしまうらしい。もしかして、その男の子もそこの出身? 助けてもらうためにカルネドに近づいたとか? 手出しができない他の逃げるために。
「ヒント3。その男の子が追加で私に言った願い事は『辺り一帯を吹き飛ばす手段』だった。そこで私は超強いブースト瓶と超強い魔力爆弾をあげた」
ブースト瓶。確か学校で習った気がする。飲むと強力な魔力を得られるが、かなりキツい副作用がでるポーション。今は使用自体禁止されてたっけ? 魔力爆弾は込めた魔力量によって爆発の威力を変えることが出来る魔道具のはず。
願いは叶えてるけど、そんなの勝手にこの国に持ち込まれたらヤバいじゃん! いくら身を守るためとはいえ限度があるでしょ!
「ヒント4。その男の子の特徴は困り眉と細い目。あとは薄い唇かな? ちなみに年齢はネムのちょっと下だね」
「それって……」
その特徴を持つ男性を知っている。今は城の牢屋にいるシンさんだ。多分その男の子はシンさんの弟だと思う。でも、何で逃げるのにこの国を選んだんだろう? もしかしたら、まだ隣国のスパイがここにいる可能性だってあるのに。転移魔法で密入国できるなら、もっと遠くの国を選んだ方がいいはず……いや、そもそもの前提が違うかも
散りばめられたパズルのピースが正しくはまっていき、とある仮説に辿り着く。
シンさんは今牢屋にいる。その情報を聞いた弟がシンさんを解放するためにカルネドに色々と頼んだ。
辺り一帯を爆破できるなら揺動にも使えるし、交渉材料としても使える。
本来、外部の人間が転移魔法で入国する事は出来ないけど、この女性は『カルネド』の名を名乗るほどだ。仮に本物じゃなくてもそれなりの魔法は使えるはず。
何としてでも兄を解放したい弟は一種の賭けに出た。それの賭けに勝ち、今強力な爆破手段を誰にもバレる事なく持ち込むことに成功した。
まずい、早く何とかしないと! でも、どうやって? この時間は人通りが多い。情報もほぼない、いつ行動に出るか分からない相手を見つけることって出来るの?
「さぁ、『史上最強の眠り姫』の力。存分に発揮しておいでよ」
青ざめる私に対して、カルネドはいたずらっ子のように笑いながらそう言った。
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