第15話
「ネムがこんな所にいるなんて珍しいじゃん。どうしたの? 食い逃げ?」
「そんな訳ないでしょ!」
「そっかー。あ、じゃあ体重を活かしてこの道を平らにしてるとか?」
「そこまで重くないよ!」
「なら、疲れているあたしのためにクッションとして来た――」
「絶対違うから」
ケタケタ笑うメレアの冗談に食い気味で否定する。メレアに会えたのは嬉しいけど、この一瞬でかなり疲れてしまった。
「で、本当の理由は何? 聖騎士団の特訓とか?」
「そう! そうなんだけど、メレア、聞いてくれる?!」
「やだ」
「へ?」
「あははっ! 嘘、嘘。そんな悲しそうな顔しないでよ。いいよ、聞くよ。気の済むまで話してみ?」
さっきまでふざけていたメレアの雰囲気が急に優しくなる。普段から私をからかってばっかりだけど、私が本当に困っている時は力になってくれる。そんなメレアが私は大好きだ。
「実は――」
山積みにされた服のことなんか忘れ、ゆっくり話を始めた。メレアは時折優しく相づちを打ちながら話を聞いてくれた。ルクスにやられた数々の仕打ちを思い出すも、不思議と怒りは込み上げてこなかった。どれくらいの時間が過ぎたんだろう。出来事を全て話し、感情を全てさらした。その間もメレアはじっと聞いてくれていた。
「ネムもネムで大変だね」
「そうなんだよ。もっと楽だと思っていたのに……ありがとね。話聞いてくれて」
「別にいいよ。それ待ってただけだし」
メレアは私の後ろを指さしそう言った。何だろうと思い後ろを振り返る。するとそこには私が積み上げた服の山があった。
「これ、メレアの?」
「私のって言うか、魔法使ったらこうなった」
「あー……ってことはこれ貰ってもいい?」
「いいけど、どうして?」
「ほら、この服頑張ってきたけどきつくてさ。さっき見たけどいい感じの服あったし」
「へー、その服って自分の意思で着てたんだ。てっきり何かの罰ゲームかと思ってた」
「罰ゲームじゃないよ! あーあ、せっかくメレアの好感度上がってたのに。今ので元通りだよ」
「いやー、つい心の声が」
「もういいよ。貰っていくからね」
ケタケタ笑うメレアを背に服の山へと向かった。そして積み上げた山をかき分け、今の私でも着れそうな服を探す。
思っていたより私が着れそうな服は少なく、最終的に手元に残った服は二着だけだった。一つはサイズ的に今の私でも余裕で着られるけど、色やデザインが好きじゃない。もう一つは色もデザインも完璧だけど、これを着るにはもう少し痩せないといけない。
着れる方の服もらっても着ないと思うし、かと言って着れない方もらってもタンスの下の方で永眠する気がするし……あえて痩せるための目的として持って帰るのもありだけど自信がない。
「ふーん。その二着で迷ってるの?」
服を目の前にしてにらめっこする私の横から、ひょこっとメレアは顔を出した。
「なるほどねー。サイズ的にはこっちの服だけど、あんまりネムって感じしないね。もう一個は……あれ? 学校でこんな服着てたよね?」
「でも、サイズが」
「聖騎士になって訓練頑張れば? そしたらいけるでしょ」
そう言って小さいサイズの服を手渡してくる。やっぱりウエストの部分が明らかに無理だ。
「でも訓練嫌いだし」
「そっか。まあ、どっち選んでもいいけど、お世話はしっかりしてね」
ゆっくり後退りしながらメレアはそう言った。
お世話? 洗濯のことかな? 洗濯は城のお手伝いさんたちがやってくれるし大丈夫だと思う。にしても、洗濯のことを『お世話』って。今日もメレアワールド全開だ。
「まるで生き物みたいに言うんだね。でも私、メレアのそう言う表現嫌いじゃないよ」
「あれ? 言ってなかった?」
「何が?」
「それ全部、魔物だよ」
「へ?」
メレアがそう言うと、肌触りの良かった服の感触がブニブニとした感触に変わる。
ゆっくり目線を下げると、手に持っていた服が徐々に大きなイモムシに変わっていった。イモムシは私を見上げながら、私の腕を登っていく。
「きゃあああ!」
必死にイモムシを振り払い、地面に落ちたイモムシから距離を取る。すると今度は足裏にぐにゃりとした感触がした。
恐る恐る足元を見ると、私に踏まれたイモムシの1匹が苦しそうに身をよじっている。何らかの危険信号を感じたのか、山積みになった色とりどりのイモムシがもぞもぞと動き出して、あっという間に私を取り囲んだ。
「ちょ、待って! マジで無理! 気持ち悪すぎ!」
「大丈夫ー! そいつ飛びかかってくるけど、魔力吸ったらどこか行くからー! 安心していいよー!」
いつの間に離れたのか、かなり遠くから私に声をかけるメレア。飛び跳ねながら手を大きく振っているけど、あいにく私にはそんな余裕はない。こうしている間にもイモムシたちは少しずつ迫ってくる。
ど、ど、ど、どうしよう。とりあえず逃げないと。でも、もう周り囲まれたし。戦おうにも私今武器持ってないし――
慌ててどうすることも出来ない私に対し、イモムシはある程度私に近づくと進むのを止めて体を縮め始めた。ボールとまではいかないけど、次々と自身の体を短く太くしていくイモムシたち。
何これ? もう私には近づかないのかな? にしても、この感じ何か嫌な予感がする。一斉にみんな小さくなって、まるで何かに備えているような……そういえば、さっきメレアが「飛びかかってくる」って言ってなかった? もしかして、そのために体を収縮させて――
その仮説を思いついた瞬間、イモムシたちは正解と言わんばかりに私に飛びかかる。
「キャァァァァ!」
その光景を目の当たりにした途端、私の意識は遠くなった。
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