第11話
「嘘……生きてる」
夢かと思い頬をつねる……うん。ちゃんと痛い。じゃあ目の前にいるメレアは本物だ。
「どしたの? 何で泣いてるの? ちょっと怖いんですけど」
「だって、死んだと思ったから! わぁぁぁ!」
勢いよくメレアに抱きつく。「ぐぇ」っとメレアの口から変な声がしたけど今は気にしないでおこう。
久しぶり抱きしめた感触は昔と変わらず、細くて折れそうで、でもしっかりと温もりを感じた。
「ネム……く、苦しい」
「いきなり煙幕で周り見えなくなって、気づいたらメレアいないし。ギラルさんに城の中に入れって言われたけど訳分かんないし、本当このまま会えなくなったらどうしようって思って――」
「苦しいって言ってんでしょうが!」
感情をぶつける私に対し、メレアは肉の鎧をつまみ反撃をした。
「ぬぉ!」
鋭い痛みが走り出したことのない声が出る。思わず出来着く手をほどき、その場にうずくまってしまった。今までも遊びでつねられた事はあるけど、それの何倍も痛かった。
「何すんのさ!」
「それはこっちのセリフ! いきなり訳わかんないこと言い出して! だいたい馬車の中で打ち合わせ――」
「そうだよ。あのテレパシーの会議にはネムさんは参加していなかった。だから戸惑うのも無理ないよ。悪いのは僕たちだ」
「で、でもさ、普通気付くじゃん! ネムを捕まえるために呼ばれたんじゃないことくらい!」
「普通なら気付くことをメレちゃんが余計な演出を加えたんでしょうが! 『不安そうな顔をしてるから出来るところまでやりたい』って!」
待って、話が見えてこない。テレパシー? 捕まえるためじゃない? 演出を加えた?
「ネムさん、ごめんなさい。最初に言っていなかった僕が悪かったです。今回僕が頼まれたのは《街を救った英雄》を探すことなんです」
それからギラルさんは何度も頭を下げながら今回のことを話した。
魔王が襲撃したときに展開した魔法。それは魔王の攻撃を完全に防ぎ、追い出すほどのものだった。後日、その魔法を使った英雄を見つけるためにギラルさんが街に出てきた。自ら英雄を名乗る偽物を発生させないために、任務の詳細は口外してはいけないと命令されていた。
しかし無断豪華な馬車で送ることに違和感を覚えたメレアはテレパシーを使いギアルさんに確認を取った。詳しいことは言えないと伝えるとメレアはとある提案をしてきた。
『これ以上聞かないから、代わりに聖騎士団の人たちと戦わせて』
ある程度私に不安をあおり、騎士から私を守ると言う名目で戦いを開始する。危ないかも知れないから一応私だけ城の中に避難させて安全を確保し、外の状況を分からなくする。
上手くいけば私を不安にさせることが出来て、人相手に本気で戦うことが出来る。メレアにとってはこれ以上無い美味しい作戦だった。
ギアルさん的には断りたかったが、ここで断るとさらに面倒な要求をしてくると判断した。そして訓練という形で城に許可を求めた。後はご存じの通り、馬車が着くなり戦闘が開始。パニックになった私をギラルさんが誘導し城の中に避難。城の中で魔法を使おうとするも城の中にいた騎士に見つかり、勝手に焦ってギラルさんに言われた部屋に逃げ込んだ。
ちなみに、私が城の中で騎士に見つかったのは単なる偶然だったそうだ。メレアの作戦に幸か不幸か偶然が重なり、恐怖に染まった私という被害者が完成してしまった。
「……なんか、メレアらしい性格の悪い作戦だね」
「私は私の本能の赴くままにやっただけだよ。でも、不安にさせる云々はどうでもよかったかな。敷地内で魔法をぶっ放すことしか考えてなかったし」
「あっそ」
「怒んないでよー。でも、よく考えたら分かるじゃん。悪いことをした人を運ぶなら見張りの人つけないと。それにあんなに豪華な馬車で送る意味もわかんないし。城の警備だっておかしいでしょ。大規模魔法使う奴が来るって言ってんのにバカみたいに集まってどうすんのさ。普通もっと散らばるか、罠張って待たないと」
確かにメレアの言うとおりだ。考えれば分かったかも知れない。でも何だろう? このモヤモヤした気持ちは……
「おっほん!」
わざとらしい咳払いが部屋の奥から聞こえてきた。中に人がいたことを思い出し、慌てて部屋の中を見た。
ニコニコした貫禄のあるおじさんと無表情なルクス君が立っていた。分かりやすく怒ってはいなかったけど、独特の圧が部屋の中を満たしていた。
どうしよう! メレアが生きていたことに気を取られ過ぎて、2人のことを忘れていた!
「ご、ごめんなさい! こっちに夢中になっちゃって……」
圧に負けて反射的に謝る。
「いえいえ、構いませんよ。むしろ今からここにお呼びした理由を話そうと思っていたところですから」
「ラッキー! お手柄じゃん」
口笛とともに背後から呑気な声が聞こえる。まったく……場の空気というものが読めないのかな。
「ははは! 相変わらず愉快なご友人ですな。聖騎士団長になった私を目の前にしても緊張しないとは珍しい」
「でしょ? 私は存在自体が奇跡だからね!」
「……お願い、黙ってて」
ふざけるメレアに祈るように注意する。
このおじさんはこの中で一番強い。それはルクス君やギラルさんの態度から分かる。多分やろうと思えば一瞬でメレアの首なんて一瞬で飛んでいくはず。今は一応笑っていてくれているけど、あまりふざけていると次の瞬間……みたいなこともあり得る。
「存在自体が奇跡か……確かに間違ってはいないな。ルクス、枠はもう一つ増やせるか?」
「はい。可能です」
「そうか……」
そう言って顎髭を触る。しばらくの間、部屋の中が静寂で満たされた。
急にどうしたんだろう? 何か考え事かな? 枠がどうこう言ってたけど。そもそも何の枠?
「うむ」
髭を触るのをやめたおじさんは私たちを交互に見た。そしてゆっくりと口を開く。
「2人には聖騎士団への入団をお願いしたい」
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