第9話

 ふかふかの座席に車輪の振動。流れるように変わっていく外の景色。かなり豪華な馬車なのか天井にまで細かい彫刻がされている。もちろん外装も素晴らしく、私が今まで見てきた馬車の中で一番豪華だった。

 前を見るとご機嫌なメレアがいる。きっと純粋にこの馬車を楽しんでいるんだろう。でも、今の私にはそんな余裕はなかった。


 実はあのやりとりの後、ギラルさんは慌てた様子で店を出て行ってしまった。そしてしばらくしてから店に戻ってきて「ちょっと城まで来てもらっていい?」と言ってきた。その顔は妙に真剣だった。

 話によると、あの石板はあくまでも簡易的な魔道具らしく、本格的な物は城の中にあるらしい。それで最終確認をするためにこうして向かっている訳だけど……


 「はぁ……」


 何回目か分からないため息が自然と漏れる。一般人が普段入らない城への呼び出し。緊迫したギラルさんの表情。そして無駄に豪華な馬車。考えたくはなくても頭の中から『罪』という言葉が離れない。

 この国では一般市民が緊急時以外に魔法を使用することが禁止されている。魔法を使ったトラブルを避けるためだ。そのため、この国には魔力を感知する結界と魔法を発動しづらくする結界が張られている。魔法を使おうと思えば使えるが、その度に騎士団が駆けつける。

 今回初めて知ったけど発動した魔力の性質を一時的に保存し、後日魔法を使った人を探すことも出来るみたいだ。


 多分、今回もそのケースだと思う。昨日は魔王の襲撃で私のところに駆けつける暇が無かった。それで今日になって魔法を使った人を見つけるために家を回っていたんだろう。

 でも、私そんなに強い魔法は使えないんだけどな。学校で魔法の授業あったけど、結構ギリギリで合格していたし。正直、結界張られた状態だと頑張っても指に火を灯す暮らしか出来ないと思う。それに、昨日は寝ていた。そんな私に大規模な魔法なんて発動できるわけがない。


 「……楽しそうだね」


 ふと前を見るとメレアは鼻歌を歌いながら窓の外を見ていた。


 「分かる?! 1回だけ城に行ったことがあるんだけど、その時は歩きだったんだよねー」


 視線を窓の外から私へと向けるメレア。その目の輝きといい自然と上がった口角といい本当に楽しんでいるみたいだった。多分この人私が連れて行かれている理由を忘れている。不安だったからメレア連れてきたけど……人選間違えたかな?


 「何? そんなに心配なの?」


 「うん……ねえ、メレア。私どうにもならないよね? 無事帰って来れるよね?」


 「無理じゃない? この国の人って『魔法=《イコール》危ない』みたいな感じあるし。あ、冒険者とか騎士目指している人たちは別だけど」


 私の問いかけに即答するメレア。確かにメレアの言う通りだ。真相板が赤く光った時点で9割方アウトなのだ。


 「……分かってはいたけどさ。普通こういう時って励ましてくれるものじゃないの?」


 「でも、明らか大丈夫じゃないのに大丈夫って言うのも変じゃん。犬に猫って言っているものじゃん」


 「それはちょっと違う様な……」


 「いいじゃん。あ、噂によると捕まった人たちが食べるご飯って美味しくないらしいよ。……もしかしたら出てくるときには元の体型に戻ってる? ってことは、ある意味今日から絶対痩せるダイエット生活じゃん?! やったね、ネム! 大儲けだよ!」


 「全然儲かってないよ!」


 「じゃあ、ネムが囚人の間はあたしが囚人の料理人になるよ。そうすれば毎日会えるよ」


 「まあ、それなら……ってさっきから私が牢屋に入る前提で話進んでない? 私まだ捕まってないし! そもそもメレア料理出来ないじゃん!」


 「あ、そうだった。仕方ない。明日からネムのご飯は生野菜だ。毎日鉄格子の間から投げ入れてあげるよ」


 「それ、もはやペットじゃん! 人として扱われているか怪しいじゃん! だったら普通に捕まってご飯食べるよ!」


 声を荒げる私に対してメレアは楽しそうにケタケタ笑っている。

 私ってメレアに友達として見てもらってるのかな? 何だか不安になってきた。


 「ふぅ」


 笑うだけ笑ったメレアは幸せそうに息をはいた。そして窓の外を見て嬉しそうな顔をした。


 「ネムに帰ってくるのは無理って言ったけどね。あれはネム1人だった場合だよ」


 窓の外を見たままメレアは言った。さっきより小さく落ち着いた声だった。たまに見せる真面目な態度。明らかに雰囲気が違う。

 何て言葉を返していいか分からず、無言のままメレアと同じように窓の外を見る。


 「!」


 外の光景に思わず息をのむ。


 綺麗に切りそろえられた低木。所々に見える石像。噴水もありとても美しい場所なのに人通りが全くない。どういう事? もしかして別の国に入った? でも、少し前までは見慣れた街の景色が広がっていたのに。


 「すごいでしょ? ここが目的地のお城です」


 かじりつくように外を見ていた私にメレアは微笑みながら言った。そして続けてメレアは言った。


 「

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