第二楽章
おやしきにひとりきりになったシンデレラは、おおよろこび。
「うれしいわ。これからいちねんかん、どうやってたのしみましょう」
ところがシンデレラは、ひとりでたのしむことをしりませんでした。
しかたがないので、まいにちかぞえきれないくらい、かいだんをのぼりおりしました。
まいにちかぞえきれないくらい、なまりのおぼんをあげさげしました。りょうてで、かたてで、からだのまえで。からだのよこで。
ときどきそれにもあきると、ようせいをなぐったりけったりしようとしました。ところがようせいにこぶしがとどきません。
「だめよシンデレラ。こぶしはにぎりこまないと、ゆびのほねをおってしまうわ」
「つきはのばすときよりもひくときをいしきして」
「ただあしをだしてはいけないわ。けりおろすの」
そして二人の周囲だけ一年の月日が経った。
ある日、シンデレラはここのところずっと考えていたことを妖精に打ち明けた。
「私、やっぱりぶとうかいに行きたい」
「そう言うと思っていたよ」
妖精は満足そうな笑顔を浮かべていた。
「あなたにはこの一年、私の知りうる限りの技を叩き込んだ。もう私の教えられることはない。自信をもって、ぶとうかいに行ってらっしゃい」
「妖精さん……私、やるわ」
気炎を上げるシンデレラを満足そうに眺める妖精。彼女が杖を一振りすると、水色のドレスが現れる。
「いい仕上がりだねえ。このドレスと靴、そして仮面は私からの餞別だよ」
ドレスはあつらえたようにぴったりだ。体の動きを阻害せず、しかも一挙手一投足を華やかに見せるのに一役買っている。
足元で輝く黄金の靴は、軽やかなだけでなく、滑らかな足捌きにも寄与している。
妖精は名残惜しそうに微笑んだ。
「これから時間の流れを元の速さに戻す。ドレスは十二時の鐘がなると魔法が解けて、ただの丈夫な服になってしまうから、気をつけるんだよ」
「わかったわ妖精さん。じゃあいってきます」
「あなたには既に、十分な実力があるわ。楽しんでいらっしゃい……
城に向かって駆け出すシンデレラ。
力強いストライド。あっという間にシンデレラの姿は丘の向こうに消えていった。
見送る妖精の頬に、一筋の涙が伝う。
と、妖精は首をかしげた。
「なにかやり忘れたことがあった気がするけど……今となっては特に問題はなさそうだねえ」
妖精は足下で不思議そうに見上げるネズミや犬に微笑みを返すと、畑から庭にはみ出して実ったカボチャを踏まないようにして、どこへともなく去っていった。
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