月うさぎの恩返し

 虫や鳥の鳴き声が活発に聞こえ、蒸し蒸しとした暑さに倒れてしまいそうな八月。

 そこで暮らしている男性は、自分の山の私有地でとある異変を感じ取る。

「誰だ? 俺の私有地にこんな悪戯を仕掛けたのは!」

 獣を捕獲するための、トラバサミがいくつか仕掛けられていた。

 この山は、男性が山暮らしを満喫するために二十代のころに頑張って貯めた給料で買った山だ。

 人の土地だということを知らないで、仕掛けてしまったのだろう。

「危ないな……。自分の私有地内なら文句は言われないだろう」

 怪我をしてしまうかもしれないので、男性は所有地内に置かれたトラバサミをすべて取り外した。

 取り外す作業をしていると、何やらガサゴソと音が聞こえる。

「ん? 何だろう……」

 音の正体はトラバサミの罠にかかり、怪我をしてしまった野ウサギだった。

 男性は、この野ウサギの足にかかったトラバサミを優しく外した。

「ほら、逃げなさい」

 足にかかったトラバサミが外れて、男性は野ウサギを逃がそうとする。

 しかし、野ウサギは一向に動こうとしない。

 トラバサミで負った傷が深く、逃げたいけど、逃げることができない状態になっていた。

 男性は、野ウサギを抱きかかえて家に帰る。

 野ウサギの怪我が治るまで、自宅で介抱することに決めた。

 最初は、なかなか警戒心を解いてもらえず、用意したごはんも食べてもらえなかった。

 根気強く、自分は敵じゃないということをアピールして三日間、野ウサギはやっとご飯を食べてくれた。

 そして、野ウサギは次第に心を開いてくれて、男性の寝室に入り込んで一緒に寝るほど仲良くなった。

 あっという間に2か月の月日が経ち、野ウサギの足は完全に治った。

 男性は、野ウサギの足が完全に治ったことを自分のことのように喜んだ。

 喜んだのも束の間、次の日。男性がいない間に野ウサギはいなくなっていた。

「いなくなるなら、教えてあげてもいいじゃないか……」

 寂しい気持ちが込みあがり、男性はその夜に一晩中泣いていた。

 その日は、十五夜で満月が綺麗に輝いていた。


 それから一年の月日がたった。

 男性は山の中にある家屋でのんびりと暮らしている。

 この日は十五夜で、男性はすっかり涼しくなった家の縁側で、満月を楽しんでいた。

 すると、客が来たのか、コンコンとドアをノックする音が聞こえる。玄関を開けてみるが、そこには誰もいなかった。

 男性は、何だったのだろうかと疑問に思いながら、部屋に戻ると……。

「な、なんだ!?」

 部屋の机に、いろんな味の団子がたくさん置かれていた。

 その隣には、一つの箱と手紙が添えられていた。

 男性は、恐る恐る添えられた手紙を開いてみる。


「去年はお世話になりました。貴方とお別れをしてから帰りたかったのですが叶えることが出来ずに申し訳ありませんでした。貴方には感謝の気持ちでいっぱいです。お礼とお詫びを兼ねてお団子と私たちの星で一番貴重なお酒を送ります。今夜の十五夜は思い切り楽しんでくださいね。月のウサギより」


 箱を開けてみると、古そうなお酒が一本入っていた。

 口に含んでみると、今まで飲んだお酒とは遠く及ばない、高級感のある味わいだった。


「人生で、一番幸せな月見酒だなぁ……」

 団子をつまみに、もらったお酒を呑む。

 男性は、すごく嬉しそうだった。

 その理由は、貴重なお酒を貰ったからではない。

 助けた野ウサギが、今も元気に暮らしていることを知れたからだ。

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