今日も寒い夏、そして今日も暑い冬(季節が狂っていることに誰も気づかない話)
「あぁ……寒い!」
八月の中旬。
季節は真夏の真っ只中で、日本中に寒波が襲ってきている。
先ほどまで私は除雪作業をしていたところだった。
「今日は土用の丑の日か……」
この疲弊した体に、なかなか食べることのないうなぎ料理が頭によぎる。
「ひさしぶりに贅沢でもするか!」
私はうなぎ屋さんに、一番高額なものを出前に頼んだ。
そういえば私は、昔から冬の暑い日に食べるうなぎが大好きだった。
だけれど、みんなに「変わっているね」とよく言われてしまい、その理由がわからなかった。
うなぎはスタミナがよく出ると聞く、だからこそ暑さに疲弊している冬の日に食べるうなぎが大好きだ。
なのに、みんなは土用の丑の日だからって食べる人が多い、だから少し寂しい気持ちになる。
私は体を温め、みかんを食べながらテレビ番組を見ていた。
「この寒波の中で夏祭りの準備か……」
肌寒そうなはっぴや、浴衣に身を包みながら屋台を準備する人たち、張り切るのはいいが、無理はしてほしくないと思ってしまった。
「日本人は祭り好きだなぁ」
この時期は甲子園が始まる、キャンプや海水浴も盛り上がるシーズンだ。
「私は寒がりだからこのままコタツでぬくぬくするのが幸せだな」
こうしてコタツで休んでいるうちに、私の元へご馳走のうなぎが届いた。
私は早速、うなぎを頬張る。
「なるほど」
夏の寒い日に食べるのも悪くないな。
「あぁ……今日も暑いなぁ……」
あれから、半年の月日が経って今は十二月。
ミンミンと蝉が鳴いている。
今日は大晦日で、冬真っ只中の猛暑日を記録している。
先ほどまで年越しの準備のため、買い出しに行っていたところ。
「最悪のクリスマスのバイトに比べればマシだけどね……」
クリスマスの日は死ぬかと思った。
サンタクロースの衣装でクリスマスケーキの呼び込みをするバイトだったが、なぜかずっと長袖で過ごさないといけなかった。
「まぁ、高額バイトだったから、奮発して最高級おせち料理を頼んだから別にいいけどね!」
手元にはそのおせち料理が入ったお重がある。
家に帰った私は大掃除も既に終え、高級おせちを厳重に冷蔵庫に入れた。
年越し蕎麦は熱いのを食べるらしいけれど、私はあえて冷えたざる蕎麦を夕ご飯に用意する。
全ての準備を終えた完璧な私は、キンキンに冷えた部屋で、いつも楽しみにしている大晦日限定の音楽番組を観る。
今日は大好きな歌手がたくさん出るので充実した年越しだった。
熱帯夜の大晦日でも鳴き続ける蝉と、除夜の鐘との調和は風情を感じるもの。
[あけましておめでとう!]
友達から、年越しのメールを見て私は眠りにつく。
朝早く起きて、いよいよお待ちかねの時間だ。
三万円もする庶民なら味わうことのない高級おせちを、独り占めにしている私は贅沢者だ。
なんとも言えない背徳感を味わいながらおせち料理を口に入れる。
「私は幸せものだなぁ……」
こんな暑い真冬の年明け早々に、幸福を噛み締める。
「それにしても、今年の年明けはいつもよりなんか違うような」
いったい、何が変わっているのかわかない。だけど昔から、私は変わっている人だった。
子供の頃に見つけた夏休みの自由研究、それはカブトムシの生態についてだった。
夏のような寒い日に生きているわけないのに。
サンタの衣装が長袖だったバイトもみんなは愚痴を言っていたのに、私だけ違和感を覚えることがなかった。
まるで、自分だけ夏は暑くて冬は寒いと錯覚しているようだった。
この疑問は恥ずかしくて他の人に話したことが無いのだが、誰かに相談した方がいいのだろうか?
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