甘いブラックコーヒー(主人公が大人になるまでの話)

私はコーヒーが苦手だった。  


小さい頃、飲んだコーヒーの味が怖かったからだ。 大人になるまで、コーヒーを飲むことはない。

 

今ならコーヒーの味を理解できると思ったので、久しぶりにコーヒーを飲もうと決めた。  


とりあえず、コーヒーを淹れてみる。  


今日はブラックコーヒーにでもチャレンジしようか。


ケーキも用意して、ひとときの休みを楽しもう。  


ソファに座ってゆったりとブラックコーヒーを飲んでみる。


「あれ、おかしいな……」  


不思議なことに、砂糖を入れていないブラックコーヒーなのに甘く感じてしまった。

 

私は自分の味覚に不安を感じてしまう。だけど、何か懐かしい感情も芽生えてくる。


「真っ黒なコーヒーは苦いと教えられていたのに、実際は甘かった」


そういえば、子供の頃に真っ黒のコーヒーを一口飲んだ時も、全く同じ現象が起きていた。  


その時、いままで聞かされたコーヒーの先入観と子供にはまだ早いと悟った私が、大人になるまでコーヒーを受け付けないようにしていたことに気づく。

 

私は、そんな出来事に懐かしさを感じながら、もう一口コーヒーを飲んでみる。


「……やっぱり苦い」  


この後、苦いコーヒーのはずなのに味覚が甘く感じる事は一度もなかった。  


その後、私はよく喫茶店に通うようになった。  


私はそれ以来、コーヒーの苦味や酸味、そして香りに魅力を感じて、今日は喫茶店のマスターとコーヒーについて語り合っていた。

 

そして数年ほど経つうちに、その頃の思い出はだんだんと薄れてしまう。


「私は大人になってしまった」  


甘いブラックコーヒーを飲んでいた頃の私は、まだ子供だったのだ。


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