ひぐらし駅(ひぐらしの嘆きに耳を傾ける話)


俺は友人との遊びの帰り、ひぐらしの声が響く駅のホームで待っていた。


「夏も終わりが近いな……」


夕焼けが空を赤く染め、ひぐらしが美しいメロディーを奏でる。


「この駅、誰もいないな」


線路の横にうっそうと生い茂る草むらに雨に打たれ朽ち果てている待合室。


ひぐらしの声は鳴り止まない。


右にも左にも電車が走り去るのだが、一向に電車が止まる気配がない。


時刻は19時を過ぎた。あたりが暗くなっても、ひぐらしはまだ泣き続ける。


このひぐらしたちは永遠に鳴くのだろうか?


そう思っていると、ひぐらしたちの声が突然止み、歌が聞こえてきた。


「ひぐらし ひとり ひとりごと ゆうひはなにもきいちゃくれない ひぐらし ひとり ひとりごと きぎもじゃまだと きいちゃくれない ひぐらし ひとり ひとりごと だれもなんにも きいちゃくれない ひぐらしひとり ひとりごと そしてかなしみさけぶだけ」


ひぐらしたちの悲しみの歌を聴き、俺はなぜこのひぐらしたちが泣き続ける理由がわかった。


「ひぐらしたちは僕に鳴き声を聞いて欲しいのか? わかった、たくさん鳴け! 思う存分聞いてやる!」


俺はひぐらしたちにそう伝えると、感謝の気持ちを込めて鳴き続けた。


「あぁ、心地よいひぐらし駅だぁ……」


ひぐらし駅。ひぐらしたちの生前の泣きたいだけ泣けなかった未練が生んだ怪異の駅。


ひぐらし駅はひぐらしの鳴き声を聴いて欲しくて近くに通った人間を取り込む。


取り込まれた人間はひぐらし駅から抜け出せず、永遠にひぐらしの鳴き声を聞かなければいけない。


男性はひぐらし駅に取り込まれ、過酷な運命が決まってしまったのだが安心してほしい。


取り込まれて五年の月日が経つのだが、今も男性はひぐらしたちの鳴き声を楽しそうに聴いていた。

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