あの海(かき氷を食べた時に友人の違和感に気づいた話)
「明日、海へ行かない?」
夏休みがもう少しで終わる頃に、友人から海水浴の誘いが来た。
どこにも行かないで、引きこもってばかりでいた俺はノリノリで誘いを受けることにした。
「……ふふっ。じゃあ明日、お迎えに行くから」
俺は、友人の言葉に寒気を感じてしまった。
次の日、友人が約束の時間よりも早く迎えにやってくる。
よっぽど海へ行く事が楽しみなのか、「まだ?」と子供みたいに急かした。
迎えが早すぎて、準備が全くできていない俺はかき氷を用意して、こう提案してみる。
「海は逃げないから、かき氷でも食べて少し休んで行かない?」
友人は不満そうな顔をして、用意したかき氷を受け取った。
「かき氷食べたらすぐ行こうよ」
友人の我儘を聞きながら、俺はいちご味のかき氷をほおばる
。
「あぁ! かき氷を食べると頭痛が痛くなるねぇ!」
いつもの友人と一緒にいるときのノリで俺はつまらない発言をする。
友人はポカンと固まって、少し間が開いたあと、「何?そのへんな言葉!」と言って腹を抱えながら笑っていた。
「え?」
この場面で笑っている友人に違和感を覚えた。
いつもなら、友人はこのつまらない発言に「変な日本語を使うな!」と怒ってくる。
そのリアクションが面白くて、ついついふざけてしまうのだが、こんなつまらない発言に笑っている友人が怖かった。
「今日は別人みたいな反応だね……いつもなら怒るのに……」
冷や汗をかきながら、友人に違和感を伝える。
僕の冷めたような言葉に、友人は何かを察したのか。
「ご、ごめん! 用事思い出したから海は今度にしよう!」
慌てた様子で友人は帰っていった。あの「友人?」は何だったのだろう?
夏休みの最終日、友人がまた遊びにやってきた。前の海へ誘った件は何だったのか、問い詰めてみると。
「え? その日は母親の実家で従兄弟と遊んでいたからお前と海へ行けるわけないし、連絡も入れてない」
不可思議な回答が返ってきた。あの時、友人?による誘いで海に行ったら危ない目にあっていたかもしれない。
そう考えるだけで寒気がする。
三時のおやつにかき氷を二人分用意して、僕はかき氷を掻き込んだ。
「あぁ! やっぱり、かき氷を食べると頭痛が痛くなるねぇ!」
「だから、変な日本語は使うなといつも言っているだろ!」
「それ! その言葉を待っていた!」
いつもどおり、百点満点の回答に僕は安堵した。
「変な奴だな」
友人は僕の行動にあきれながら、かき氷を美味しそうに頬張った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます