電車に乗り遅れてしまった(子供は一人で電車に乗ると怖い目に遭う話)

 電車に乗り遅れてしまった。


 次の電車まであと三分、その三分待たなければならないことに絶望する。


 線路が丸見えのまま待つことが怖くて、私は電車を待つことが大嫌いだ。


 なぜこうなってしまったのか?それは小学生の頃に遡る。


 小学校二年生の頃、友人が事故に遭って、意識不明の重体になった。


 私はいても立ってもいられなくなり、親の言うことを聞かずに一人で隣町の病院までお見舞いへ行くことにする。


 隣町の病院まで行くには、電車に乗らないといけない。


 改札、チャイムの音、自分より何倍も大きい電車、初めて一人で行く電車は何もかも目新しい。


 午後四時すぎ。線路をじっと見つめる。


「……え?」


 見間違えるはずがない。線路の上に、半透明の小さな女の子が素足で立っていた。


 その姿は私の友人だった。


 友人は「こっちへおいで」と手招きしている。


「嫌‼︎」


 友人から離れようとすると、後ろの人にぶつかってしまった。


 振り向くと、もう一人半透明の少年が私を押さえつけて、線路に突き落とそうとしていた。


「誰か!助けて!」


 しかし、隣で待っている乗客も駅員さんも、誰も私の声に反応しなかった。


「し、死にたくないよ……」


 駅の電光掲示板にはありえない時刻、午後四四時四四分が表示される。


 ここで駅のホームアナウンスが流れ始めた。


『次はあの世行き〜、あの世行き〜』


 車掌アナウンスと同時に、半透明の少年が私の背中を突き落とし、死を覚悟した。


「子供が線路に落ちているぞ!」


 その時、大人達が私に気づいて、線路に落ちた私を拾い上げる。


 ちょうど、電車は遅延して私は助かった。


「いつまでも一緒と約束したのに……」


 そう友人の声が聞こえて、友人と私を突き落とした少年は消えてしまった。


 結局、私は病院へ行くことができなかった。


 数日後、友人は意識が不明のまま、息を引き取った。 死因は駅の線路に落ちて、電車に轢かれてしまったらしい。


 それ以来、私は電車を待つことが大嫌いになった。


 三十分待ちは当たり前のように拒否反応を起こすのだが、今でさえ私は三分の間、電車を待つことができない。


 電車を待っていると、嫌なのに線路の方に目を向けてしまう。


 そして、毎回友人のような見た目の少女が立っている幻覚を見てしまう。


 過去の出来事を思い出してしまって、私は気分が悪くなり、駅のホームから離れる。


 今日は両親の車で帰ろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る