チロチロ(お金儲けに期待してはいけない)

 むかし、むかし、あるところに、山の清水を汲んで売り物にしているお爺さんがいました。


 その清水は人々にとって最も美味しいと評判で、おじいさんのもとに清水を買い求める人が絶えませんでした。


 ある日、村人たちの会話で「おじいさんの清水」について話していました。


「おい、この山の向こうにあの「おじいさんの清水」があるんだってよ!」


「本当か!?清水を見つけ出して売ることができれば、俺たちは大金持ちじゃないか!」


 一攫千金を狙って、村人たちはおじいさんの清水を探しに行きました。何日も山の中を歩き回りましたが、どこにも清水は見つかりません。


 それでも、村人たちはあきらめませんでした。おじいさんの豪邸をわざわざ訪ねて清水のありかを尋ねます。


「この清水は汲むときに「チロチロ」と音がするんだよ。その音に耳を澄ますことで探してみてはいかがでしょうか?」


 おじいさんは、親切に村人たちに清水のありかのヒントを教えてくれました。


 しかし、おじいさんの言うことが誰にも理解できる者は現れず、清水のありかを見つけることができませんでした。


 時は流れ、「おじいさんの清水」についての昔話に夢中になる二人の双子がいました。


「私達だけの力で、おじいさんの清水の秘密を解き明かそうよ!」


「ダメだよ、子供達だけで山に行くのは……」


 無鉄砲にも子供だけで山に登ろうとする姉のアカネを、弟のユズが必死に止めようとします。


「ユズが行かないんだったら、私は一人で行くんだからね!」


「うぅ……」


 結局ユズはアカネのことを止めることが出来ず、二人だけで山の中へ向かってしまいます。


 探し回っているうちに、日が暮れてしまい二人は道に迷ってしまいました。


「チロチロなんか探すんじゃなかった……」


 言い出しっぺのアカネは、後悔していましたがもう遅いです。


 不気味な空気に包まれた森の中で、二人は不安に泣きながら喉を乾かしていました。


 泣いても始まりません。水筒も忘れてきた二人は飲み水を探して辺りを見渡して

 いると。


「ほら、あそこに蛇口があるよ!」


 ユズが、偶然蛇口を見つけ出し。無我夢中に水を出そうとひねってみます。


 すると、「チロ!チロッ!」と音がして、飲んでみると今まで飲んだことのないほど美味しい水だったのです。


「そうか!美味しい水の流れる蛇口の音が「チロチロ」なんだ!」


 二人はついにチロチロの正体にたどり着いたのです。しかし、二人は喜びもしませんでした。


「チロチロ」の正体が蛇口の音だなんて、期待外れでがっかりしたからです。


 それから、二人は村の大人たちが必死に探してくれたおかげで、無事に帰ることができました。


 二人は大人たちから厳しく叱られ、二度と子供だけで山に登ることはないと誓いました。


「チロチロの正体って、蛇口の音だったんだよ!」


 アカネは「おじいさんの清水」の正体を大人たちに教えました。


 しかし、だれも信じてくれませんでした。


 それもそのはず、おじいさんが生きていたのは蛇口なんてなかった大昔のことなのですから。


 では、チロチロの音というものはなんだったのでしょうか?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る