上を向く少年(黄昏時の公園には不思議な少年がいる話)

 「はぁ……」

 入社一年目の私は今日、大きなミスをしてしまい会社に迷惑をかけてしまい、落ち込んでいた。


 夕方、コンビニ弁当を買って帰路につくと、子供の頃によく遊んでいた公園が視界に入る。

 私は子供の頃に遊んでいたことを思い出して、懐かしさから、つい公園に寄ってしまう。


 その瞬間、大勢のセミたちが鳴き始めた。

 奇跡的なタイミングに、セミたちが私を慰めてくれている気がして、嬉しかった。       ベンチに座りながら、コンビニ弁当を食べ始める。


 コンビニ弁当を食べ終えて、セミたちが鳴きやんだ頃、公園に生えている大木の前で、少年が上を向き、ポツンと立っていた。


「君、こんな時間に危ないよ。早くお家に帰りなさい」


 心配になった私は、少年に声をかける。

 すると、少年はこう返した。


「凧が木に引っかかっているの……」


 今時、正月でもないのに凧揚げ遊びなんて珍しい。

 だけど、木に引っかかっている凧は、背の高い大人でも取りに行くのは難しいほどの高い場所にある。


 女性の平均身長より、背が低い私には木に引っかかっている凧を取りに行くのは不可能。


「ごめんね、私には取れそうにもない……」


 私は申し訳ない表情で、少年に謝罪をする。


「そう……」


 少年は悲しそうに、黙り込んでしまった。


「夜道に、子供だけでいると危ないよ……あれ?」


 腕時計から、時間を確認するために目を離していたら、いつの間にか少年はいなくなっていた。

 この怪奇現象に、私は怖くなって公園から逃げ出しまう。


 ――数日後、私は買い物をしようとモールに向かっていると、先日通った公園を見かける。


「え……?」


 先日の公園は、花壇や遊具がしっかり整備していたイメージだったが、目の前の公園は、遊具やベンチが全て撤去されており、何年も放置されたような雑草がたくさん生えていた。


「これは?」


 動揺を隠せない私は、公園に設置されている石碑を見つける。

 この石碑は「悲劇を繰り返さないために」文字が刻まれた慰霊碑だった。


 慰霊碑には「木に引っかかった凧を取るため、木に登った○○君は、足を滑らせて頭を打ってそのまま亡くなってしまった」と書いてある。


 この慰霊碑は、少年の死を忘れないために、他の子供たちに木登りの危険性を伝えるために建てた慰霊碑だそうだ。


 スマホで調べてみると、この公園は五年ほど前からすでに無くなっていた。

 残っていたのは、更地に寂しく建てられている慰霊碑。


 慰霊碑を見て、私に出会った、少年の悲しそうな顔を思い出す。黄昏時、私は未練を残した公園と少年に呼ばれたのだ。


 私は走り出して、ショッピングモールへ向かい、おもちゃ屋さんで子供用の凧を購入する。


 公園に急ぎ足で戻ると、私は石碑の前に凧を置いて、手を合わせる。


「安らかにお眠りください……」


 すると、置いた凧が光とともに消えて、少年からの感謝の声が聞こえた。


「……ありがとう」


 その声に私は、涙をこぼしていた。

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