人気者になれる配信カメラ(欲に駆られていけない話)

「今日も配信を見に来てくれて、ありがとうございます!」


 パソコンのカメラの前で、作り笑いの笑顔を見せる私は配信者としての活動をしている。 

 今日の配信を終えたあと、私は大きなため息をついた。  

 なかなか増えない視聴者数とコメント。

 五年間も毎日配信を続けているのに、努力が報われず、低視聴者数の配信者のままだ。

 私は配信者としての限界を感じながら、検索サイトで日課の配信のためのネタ探しを始める。


「人気者になれる配信用カメラ?」


 偶然、いつも使っている通販サイトで商品を閲覧していると怪しげな商品を見つけて、興味を惹かれた。

 どうやら、このカメラを配信で使用するとすぐに人気者になれるという商品だそうだ。


「こんなもの、詐欺だよ絶対」


 値段は安く「配信のネタにできるから」という理由で、私は商品を購入する。


「ネタのために買ったものだし、詐欺だとしてもそんなに損はしないでしょ」


 数日後、いつも配信を始める時刻より前に商品が届く。

 早速、商品のカメラをパソコンにつないで、いつものように配信を始めた。


「同時視聴者数が、一万人⁉」


 期待もしていなかったカメラの効果に驚き、私は嬉しくなる。


 だけれど、この出来事を喜べたのはこのときだけだった。

 新しいカメラを使って以来、奇妙な音や謎のうめき声などが聞こえるようになり、私の生活に影響が出るようになったのだ。

 影響は配信者活動中にも起こり、コメント欄に見たことのない禍々しい言葉が流れ始めるようになる。

 私は怖くなり、長年続けてきた活動を休止する。

 それから、一ヶ月経っても不可解な現象は収まらないまま、悪化し続けています。

 どこからか視線を感じるようになったり、非通知のいたずら電話など、不可解な現象は日に日にエスカレートしていった。

 私は我慢の限界を迎え、「もうやめて!」と、硬い床に強くたたきつけて、スマホを破壊した。

 スマホを破壊して、もうこれでいたずらができないと安心しきった私に「ピンポーン」と玄関のチャイムが鳴る。

 誰が来たのか玄関についている穴を覗いてみると、人間とはかけ離れた怪物が玄関前で立っていた。

 身の危険を感じた私は、玄関のチャイムには応えずに居留守を使おうとした。

 扉の奥からミシミシ!と音が聞こえて、怪物が私の自宅に侵入してきた。


「私はここで死ぬんだ…」


 心の中で、私は人生の終わりを覚悟する。


「迷惑をかけてはいけません!」


 女性の声が聞こえて、怪物は斬撃の音と共にバラバラになった。


「だ、誰ですか?」

「初めまして、私は死神という者です」


 死神と名乗る女性は、頭を下げて丁寧に名刺を渡す。

 そこに書かれた漢字二文字に私は、背筋が凍る。


「死神!?」

「落ち着いてください、今日は命を狩りに来たのではないので!」


 死神は頭を深く下げ、自分がここまでやってきた経緯を話した。


 彼女の住む冥界では、娯楽が一切存在しない。

 そんな冥界の人たちのために、彼女は現世で売っている配信用カメラを真似した[冥界カメラ]を制作して、流通させる。

[冥界カメラ]は、電気もパソコンもスマホもない冥界で、配信できるという代物。

 端末は現世で使えなくなったブラウン管のテレビを死神が改造して、配信映像を見られるように。

 彼女の頑張りのおかげで、冥界は配信者ブームだという。

 人間界では流通していないはずだったのだが、冥界にいる転売ヤーがこの配信用カメラを[人気者になれる配信用カメラ]と騙って現世に流通させてしまった。

 現在、死神は現世に流通された[冥界カメラ]を自主回収するために現世を飛び回っており、購入者である私の身に危険が迫っていることを察知して、助けに来たのだという。

 今までの怪奇現象は、その配信を見た冥界のリスナーが起こしたものだと死神は説明する。

 私はカメラを死神に返そうとする。

 死神は申し訳なさそうに、もう一度頭を深く下げ、こう話を続けた。


「貴女の配信は冥界で大人気なんです。今までの迷惑料はいくらでも支払うので、配信を続けてもらえないでしょうか?」


 カメラの能力ではなく、自分の実力で冥界のリスナーに配信を楽しんでもらえていることを知り、私は冥界の人たちのために頑張りたいと思った。

 怪奇現象は、死神がなんとかすると言ってくれたので、私は配信を続ける覚悟を決める。


 あれから二年後、私は本格的なオカルトの検証する配信者として、現世でも注目されるようになっていた。

 死神である彼女が、配信のアシスタントをしてくれるので、安全にオカルトを検証して配信できている。

 配信のない日は、私の家に居候していて、毎日のように家事を手伝ってくれる。

 冥界のリスナーたちは、現世のリスナーたちの怖がっている反応を見て、楽しんでいる。

 私は、冥界と現世のリスナーたちをどちらも楽しませる、唯一無二の配信者として頑張っていた。

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