現実の延長線で【ホラー短編集】

ものくい

怪異牛乳(夢の中では牛乳を飲んではいけない話)

 真夜中の十二時ごろ、私は明日のために寝ようとしていたが、なかなか眠れなかった。

 一度起き上がってキッチンまで向かい、冷蔵庫を開ける。

 こういうときは、大好きな牛乳を温めて飲むことが私の日課だった。

 鍋に牛乳を入れて五分くらい。

 待ちに待った、ホットミルクが完成して私はミルクを口に含んだ。


「苦!?」


 味わったことの無い、牛乳の苦みに思わず牛乳をキッチンの流しに吐き出してしまった。

 心配になって、牛乳パックの賞味期限を確認したが、まだ日にちは余裕があったため首をかしげた。

 この口の不快感をなんとかするために、私はストックしておいたカップ麺を作ろうとする。


「牛乳ラーメン……?」


 何かがおかしい。

 私が購入したカップ麺には、牛乳ラーメンという商品は買った覚えは無い。

 味噌や醤油味など、買った覚えのあるものはすべて「牛乳ラーメン」に変わっていた。


 その不気味な現象に怖くなってしまい、私は夜食のカップ麺を諦める。


 どうしてもお口直しをしたかったので、私は水でうがいをするために水道の蛇口を捻る。


「し、白い?」


 出てきたのは水ではなく、ぬるま湯のような白く濁った謎の液体。

 謎の液体は、私がどうしても飲みたかった牛乳の甘い香りがした。


 私は謎の液体が毒ではないと思い、口に含んだ。


「温かい牛乳だ……」


 毒では無く、ホットミルクだということに気づいた私は、そのミルクを満足するまで飲み続ける。

 満足したあと、急に眠気がやってきて、そのまま私はキッチンで倒れるように眠ってしまった。


 ――目が覚めると、私はキッチンで眠ったたはずなのに、ベッドで目を覚ました。


 あれは何だったんだろうか?


「それよりも、奇妙な現象が夢でよかった」


 あの出来事が夢だったことに安堵して、私は顔を洗うために洗面台に立ち、うがいをするために口に水を含む。


「……え?」


 なぜか水に味がした。

 口から抜ける甘い香り、冷水を出したはずなのに液体は生温かい。


「何で……?」


 大好きだった牛乳が、あまりにも異常な状況に巻き込まれ、大嫌いになってしまった。

 だけれど、大嫌いになるだけならどれだけ幸せなことか。

 一生付き合わなければならない絶望に、いつしか私はおかしくなってしまった。


 舌を抜き取ってしまいたいほどに……。


 ――この世界には[怪異牛乳]という都市伝説が存在する。

 [怪異牛乳]は夢の中でしか存在しない幻の飲み物。

 目の前に現れることは貴重で、目撃例は滅多にないことで有名だ。


 しかし、[怪異牛乳]は決して飲んではいけない。

 飲んでしまうと[怪異牛乳]の呪いにかかってしまい、現実世界で感じる味覚が全て牛乳味になってしまうからだ。


 味覚を直す方法は一切無く、一度飲んでしまうとその人間の夢には二度と現れることはない。


 [怪異牛乳]の呪いにかかりたくなければ、夢の中では絶対に牛乳は飲まないことが大切だ。

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