第28話 瓜二つ

「アポロ、合格できて良かったね!」

「うん! ロコットもがんばって!」

 二人、手の平を合わせてきゃぴきゃぴしていた。

 まさに小学生女子の仲良しこよしの二人って感じ。

 ギスギスしていない純粋さが表に出ている。

「なにをにやけているのよ」

 じとー、っとした目で絵空に見られた。

「にやけているとか、変な印象を抱かないでくれる!? 今のは、アポロ楽しそーだなーって、保護者的な目線で見てただけなんだからね!」

「なんでツンデレ風に言うのよ……」

 ツンデレ? と近くにいたまりが不思議そうな顔で。

 すると絵空がまた落ち込んでいた。

 膝を崩し、両手を地面に。orzの体勢になっていた。

 まあ、一般の人はツンデレとか知らないかもしれない。

 普通とはかけ離れてしまっていることが、そんなにもショックかね。

「行くわよ、絵空」

「あー、うー。ロコットぉ、私ってオタクなのかなあ?」

「知らないわよ。あいつとは似たもの同士って感じはするけど」

 やっぱりかぁあああああ……と、息を吐きながら。えぇ……。

 オタクを汚れもの扱いするのはもうやめようよ。

 というか、僕を汚れもの扱いするのをやめようよ。

 順番がきたらしく、ロコットと絵空は先生の元へ。

 ロコットは心配いらないだろう。確実に合格するだろうし、優秀なクラスに配属されるはず。

 さっき、

「アポロはたぶん、中間くらいのクラスかもね。うん。アタシもアポロに合わせるね」

「ダメ! ロコットは一番じゃないとヤダ!」

 という会話を聞いた。

 アポロに合わせて自分のレベルを下げるロコットの事を、アポロは許せなかったのだろう。

 だからこそ、一緒のクラスになりたかった本心を抑え、ロコットを注意する。

 ロコットは、えーとかぶーとか文句を言っていたが、アポロの本気を知り、

「……分かったわよ。真面目にやる」

 渋々、そう納得していた。

 ロコットのことだ、アポロに嫌われるようなことはもうしないだろう。

 すると、ロコットと先生のディアモンバトルがそろそろ始まろうとしていた。

 僕とアポロはもちろん観戦する気でいたのだけど、

「アポロ・スプートニクさん。ぼくとエキシビジョンマッチ、いいかな?」

 と声がかけられた。

 僕達は振り向く。そこには、とんがり帽子を被り、ワンピース姿の……と、服装はアポロやロコットと同じなので省略。学園の生徒だろう。ならば制服が同じなのは当たり前だ。

「えーと……」

 アポロは名前が出てこないらしく、指先でこめかみを叩く。

 クラスメイト、ではないのかも。僕も見た事がなかった。

 ベタ塗りされたような光を反射させない黒い髪の毛。

 イメージとしては、日本人形みたいだった。

 髪の長さは肩にかかる程度。瞳も同じく、黒く塗り潰されていた。

 印象はまったく違うけど、アポロとそっくりだった。

 鏡のように身長や髪型が似ている。

 違うのは色くらいか。アポロは白くて、目の前の彼女は、真っ黒だ。

 彼女。そう、目の前の生徒は女の子だ。

 一人称がぼくで女の子かあ。

 あんまり見ないから珍しい。見ないというよりは、聞かない方が正しいかもしれない。

「エキシビジョンマッチ?」

 僕は思わずそう呟いてしまう。

 マスター同士の会話にディアモンが割って入るのはあまり良くないのだけど、仕方なかった。

 だって僕、なにも説明を受けていないんだもん。

「初めまして、アポロさんのディアモンさん」

 なんとなく、語呂が悪い気がした。

 僕にきちんとさん付けをしてくれるということは、差別をしない良い子なのかもしれない。

「エキシビジョンマッチというのは、思い出作りのようなものですよ。卒業試験で先生とバトルし、先生との思い出を作る。となれば、クラスメイト、生徒。友人同士で戦い、思い出を作るのがエキシビジョンマッチなんです」

 へー。だから周りの生徒は、空いている試合会場を使ってバトルしているのか。

 笑い合いながら。ふざけ合いながら。

 真剣にバトルをしている生徒もいるけど、基本的に遊びなのだろう。

 この子も、アポロと思い出が作りたかったってことなのかな?

「どうするの、アポロ?」

「ん。いいよ」

 でも、とアポロは続けた。

「うむ、あなたのこと、あんまり知らない」

「ぼくも、知らないよ。ずっと学校を休んでいたから。ちょっと、体が弱くてね」

 微笑みながら言う。

 大きな病気ではないですよ、心配しないでください、というのを表情一つで分からせた。

 なんて気遣いができるのだろうか。

 それができるならばまず、名前を名乗ってほしかった。

 同じ学年にいるのだから名前くらいは知っているでしょ、なんて常識はなしにして。

「それもそうですね。初めまして、ではないんですけど。一応。ぼくは【アジュナ・ソー・トーラス】――よろしく」

 手を差し出され、アポロが握る。卒業式の日に知り合う、学年が同じ生徒なんて珍しい。

 アポロは中々できない体験をしているなあ。

「よろしく」

 今度は僕にまで。あ、よろしく。まさかくるとは思っていなかったので、滑舌が酷い事になっていた。握手をして、笑顔を返し、誤魔化した。……誤魔化せてる?

「アジュナのディアモンは?」

「ちゃんといるよ。ここにね」

 アジュナちゃん。いや、アジュナでいいや。

 彼女はポケットからディア・カードを出し、見せる。

 けど、描かれているディアモンは真っ黒で、分からない。

 泥が人の形をしているみたいだった。

 常時解放される、厄介な能力なのだろうか。

「ごめんね、どうやら恥ずかしがっているみたい」

「恥ずかしがってるんだそれ……」

 塞ぎ込んでるって意味?

 両手で顔を隠すような感じで泥だらけになられても。

 アジュナはすぐにカードをしまってしまう。

 ま、これから戦うのならば、あまり情報を渡したくないのかも。

「じゃあ、始めようよ」

「え、でもロコットが……」

 しかし思い直したのか、アポロは言う。

「ロコットは大丈夫だね。信頼しているからこそ、試合を見届けない。勇架、うむ、格好いい?」

「格好いいよ。なんだかんだ言いつつも、主人公の強さを一番に認めているライバルキャラみたい。いざって時に自分の命を天秤にかけても主人公の勝利に賭けるとか、普通できないもんね」

 それ、かっこいー! とアポロが共感してくれた。

 うわっ、これすごい嬉しいな! ここ数か月、何度も体験しているけど。

「ぼくも格好いいと思いますー。あ、あそこ空きましたね。行きましょう」

 アジュナはまさにいま空いたばかりの試合会場へ、すたすたと歩いて行ってしまう。

 すれ違う生徒に手を振りながら。

 長く学園を休んでいた、と言っていたけど、クラスメイトとの仲に不都合は感じていないらしい。

 アジュナが休んでいたことなど知らないように、クラスメイトの少女は友人と話しながら離れて行ってしまった。

 過剰に注目されても居心地が悪いから、ギャラリーが誰もいないこの試合会場は、実は良いのかもしれない。

 アジュナとアポロが向かい合うように、試合の時の定位置につく。

 まりはいつの間にかカードに戻っていた。

 今はゆっくりと休んでいる。さっきは頑張っていたし、ぐっすりと眠っていてほしい。

 となると、出動は僕だろう。

「よし! アポロ、行ってくる!」

「気を付けてね、勇架」

 がんばってね、と軽い感じで言われたけど。

 いやいや、アポロの指示が勝敗や怪我に関わってくるから、もっと真剣に。

 一つ一つの試合、気を抜いていい状況なんかないんだからね!?

「あー、それでくるんですねー。ふんふん、なるほどー」

 アジュナは頭の中で考えを組み立てているのか、独り言が激しい。

 二重人格? もしくは一人会話。

 それが僕らの耳にも届いているけど、僕らは反応しなくてもいいのかな? 

 できればあまり触れたくない一面だった。

「やっぱり、彼ですね」


 アジュナがディアモンを出した。

 泥で全身をコーティングされている、ディアモンだった。

 滴る泥が足下に溜まる。出ても出ても減らない体の泥。

 内側から増え続けているのだろう。見た目が既にグロイ。触りたくねえー。

 泥のディアモンは仕掛けてこない。

 あの見た目で、全力疾走で向かってこられても困るんだけど。

 来ないとなると、僕から行かなくてはならなくなってしまう。

 自分から行くのも、中々勇気のいるビジュアルなんだけど。

「さあ、どうぞ。遊びなんですからあまり気負わずに」

「うん。分かった」

 アポロが答える。勇架、先取点を決めちゃって、とスパルタ指示。

 先取点を決めて、と言われても。どうするかねー、と悩んでいると、

『……おう。言ったじゃん。勝手にやれって』


 僕の内側から声が聞こえた。

 僕自身じゃまったく制御ができない、僕の能力が、効果を発揮する。

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