第26話 試験の日
「はい、合格です。入学式の時に貼り出されるクラス分けを楽しみにしていてくださいね」
ありがとうございました、先生。
アポロの前の生徒がお礼をして、ディアモンと嬉しさを分かち合っていた。
全力を出し切れたのだろう。やり切った後の爽やかな顔をしていた。
「では、次。アポロ・スプートニク」
はい、と真っ直ぐ手を伸ばしたアポロ。僕とまりが、後ろをついて行く。
「召喚さえできていない時はどうなるのかと思いましたが……良かったですね。こんなに良いディアモンを見つけることができて」
僕らを見て微笑む先生。だから、僕らとアポロで態度を変えるのやめませんか?
いつもの先生の方が好きです。今の先生は気持ち悪いんです!
「(先輩。どうしよう、気味が悪い……)」
「(そっか。あんまり先生と過ごしていないんだよね、まりは。気味が悪いけどがまんしてあげて。アポロたち生徒の前ではあれが普通だから)」
「(はあ、じゃあ仕方ないか。今は先生の顔を立ててあげる)」
「聞こえてますよ、二人共ー?」
にこりと笑みを作り、言われた。
笑顔が恐い!
後で校舎裏に連れていかれそうだ。腹部に週刊誌でも入れておこう、念の為にも。
なんでもありませんよ!? びしっと僕らは敬礼して答える。
まあ、いいでしょう的な頷きを見せられて、一安心。
今のはなかったことにしてくれるらしい。
アポロが首を傾げていた。
知らなくてもいいことがアポロにはたくさんあるんだよ? それが小学生のつらさだよ。
「それじゃあ早速、始めましょう。後ろも詰まっていますしね」
アポロの後ろにはまだまだ生徒がいた。卒業試験はまだまだ序盤だ。
先生も、先生のディアモンも、まだ疲弊していないし、能力解明の糸口も見えていない。
先生のことだから、糸口を見せないようにしているし、分析されないようにディアモンを変えているけど、これって最初の方が不利なのではないか? と思うのだけど。
「大丈夫ですよ。後にやる生徒の方が、ちょっと厳しめで審査しますから」
まあ結局、クラス分けですから、そんな重く捉えなくてもいいですけど、と先生は言う。
モチベーションが下がるなあ。プレッシャーにはならないけどさ。
「ルールは、繰り返すのはこれで最後にしましょうか。一対一のディアモンバトル。先生のディアモンを戦闘不能にする気でかかってきて結構です。倒してしまってもいいですけど、基本的に、私が合格だと思えばそこで合格となりますので。やめの合図で攻撃はやめてくださいね」
破ればどうなるか……、分かりますよね? 一言で場が凍る。
ぱんっ、と先生のねこだましで、場が弛緩した。
ふぅ、とクラスメイトが安堵の息を吐く。どんな存在だ、先生は。
「ディアモンの交代はなしです。決めたら最後、そのディアモンを使ってください」
選出も重要になるというわけか。
アポロは、さて、僕とまり、どっちを出すのか。
「先生」
「なんでしょうか、アポロさん」
「先生のディアモンを先に出してほしいです。それから決めます」
「ふむ。いいでしょう。相手の出方を見てから決めるのも、一つの手ですしね」
そして先生が、一枚のディア・カードを出す。
手首のスナップを利かせて、カードを放つ。
ひらひらと舞ったカードは、地面に触れる前に光り輝き、塊を放つ。
塊から光が消え、輪郭と配色が見えてくる。
男だ。黒髪でメガネをかけた、クールな印象だった。
大学生くらいだろうか? 前髪がメガネの前まで到達してしまっている。
邪魔そうに手でどかすが、また戻ってくる前髪。切れよ……は、禁句だろうか?
「あなたに決めたわ、
駆と呼ばれた青年が、ちらり先生を見る。そして。
「まだその喋り方で通しているのか。そろそろ隠すのやめれば? 誰も幻滅なんてしねえっての。考え過ぎ。誰もお前の事なんて見てやしねえんだから」
言ったぁああああああッ! 僕らディアモン側が言いたくて仕方のない事を、平然と言ったぁあああああッ! さすが先生のディアモンだぜ、遠慮しなくていいもんね!
「駆ぅ? またあれをされたいの?」
がしッ、と首を掴まれた駆……さん。
「分かったよ。ごめんって。真面目にやるから許してくれ」
「仕方ないわね」
あ、あっさりと引き下がった。
先生モードの時はあまり酷い事はできないか。生徒の目もあるし。
でもそれって、生徒の目がなければ、どんな酷い事でも遠慮なくするってことなんだけど。
誰にも見られていないところで駆さんがエグイ事になっていると考えると、ぞっとした。
気になる。あれってなんだ!?
「ふむふむ」
アポロはメトロノームのように頭を揺らす。
それ、ちゃんと考えられているのだろうか?
そして、決めた! と指を差した。
「まりに決めた」
「え!? あたしっ!?」
やる気がなさそうに座り込んでいたまりは飛び起きる。
僕も、僕が出るものばかりと思っていたけど。
「まりでいいの。まりがいいの」
その言葉に、まりは嬉しさを表情に出す。
「うん! マスター、あたしっ、頑張るよ!」
とんっとんっ、と戦場へと飛び出すまり。
僕はその背中を見つめ、小さく、がんばれっ、と呟いた。
「勇架、まりで、いいよね?」
恐る恐る聞いてくる。
アポロが決めたのならば、それでいいんじゃないの?
「勇架も、出たかった?」
「ちょっとは、まあそうだけどさ。でも」
まりが頑張って特訓していたのを知っている。
強くなったよ! と嬉しそうにはしゃいでいたのも。
「今回は、まりがいいと僕も思う」
だから、アポロの決定は間違っていないよ。
「じゃあ。自信、持つ」
「うん。アポロ、頑張って」
僕はアポロの頭をぽんぽん、と撫でる。
「もう一回」
まさかのアンコールだった。
命令通りに、僕はもう一度。
「これで大丈夫。うむ、元気出た」
スキップしながらアポロも戦場へ。
アポロは定位置についてもまだ、にやけたままだった。
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