第23話 地下への入口
森を抜けて隣町へ到着。
まずは本来の目的を達成させ、荷物を軽くしよう。
物理的にも、精神的にも。
ついでアポロに頼んでロコットを呼んでもらった。
アポロだからこそ、ロコットはすぐに「飛んで行く!」と前のめりに言ったのだろう。
文字通り、杖に乗り、魔法を使って、飛んで。
荷物を受け取った商店のおじさんは、荷物と引き換えに、先生へのお礼のお土産を渡してくれた。
僕らが運んできた量と変わらない。
これじゃあ、行きと帰りで疲れる度合が一緒じゃないか。
これで日帰り? 殺す気なのかあの先生は!?
仕方がないので、勿体ないけど宿を取る。荷物を置き、背中が軽くなる。
代金は割り勘だった。
アポロから少しずつ貰っているお小遣いを節約して貯めたお金が……一瞬で散っていった。
両手で顔を覆う。異世界での頼りの綱が、一本ぶちりと切れた。
もちろん、一銭も持っていないまりは払えない。まあ、泊まるわけじゃないし。でも、まりを助けるために働くんだから、後で返してくれてもいいじゃないか、とは思うけどね!
「うわー、先輩、器ちっちゃあ。さっきは格好良いかもって見直してたのに」
「見直した!? 見直さなくちゃいけないほど、まりの中で僕は落ちてたのか!?」
え、当然じゃん、とまりは純粋にそう言った。
傷つく……。裏のない攻撃的な言葉が一番、鋭いんだよ?
「まりは、仲間が囚われている場所、覚えてるの?」
僕らのやり取りに絵空が入ってくる。ちなみにアポロは屋台で売られていた、中にあったかいあんこが詰まった、柔らかい生地のボールを両手で持ち、かじっていた。
ベビーカステラみたいな見た目だ。
絵空が羨ましそうに見てたけど、ぶんぶんと首を左右に振る。
……食べたいのか。ロコットに頼んでくれ。
「うん。でも、なんとなくだけど。地下だから、入口を見つけるまではちょっと悩むかもしれない」
まりが頼りだ。場所さえも分からず、選択肢が多い中で探すよりは、なんとなくでもいい、ある程度の場所を絞り込んだだけでも、見つかる可能性がぐんと上がる。
「みんな、大丈夫かな」
まりが不安そうな表情を見せる。僕らを信頼してくれているから、ここまで晒け出せている。
遠慮がなくなるのは良いことだった。
僕には最初から、遠慮がまったくなかったけど、いいよ。目を瞑ろう。
「捕まっていた時は、どんなことされてたの? しばかれてた?」
いやいや、部活じゃないんだけど。
「鎖で縛られて、鞭で叩かれていた、とか?」
「……? いや、そんなことはされてなかっ」
「なっ、それよりももっと特殊なプレイを!?」
喰い気味で絵空が聞いた。
まりが引いてるからもっと顔を離してあげて。
「特殊……? プレイ……? よく分からないけど、拘束されていただけだったような……」
「あれ? それだけなんだあ」
なーんだあ、と繰り返す。期待はずれ、みたいな顔をするなよ。
「姉さんも、ちょっとおかしい?」
まりの言葉がぐさりと絵空に突き刺さった。
アポロと一緒だ。まりの言葉には、真っ白な純粋しかなかった。
中学三年生。つまり僕らの一つ年下なだけなんだけど。
まりって、そういうのには興味がないのか。
なにも知らずにここまで育つのは、珍しいけど。
他人が影響を与えてくるものなんだけどなあ。
友達に恵まれたのか、逆なのか。分からん。
隣で絶句している絵空は、今の自分の思考が普通ではないと自覚して、顔を青くしていた。
自覚するの、今なの? 遅ぇよ。
首を傾げるまりに、なんでもないない、と手を振りながら返し。
僕の元へ、ずんずん、と近寄ってくる。胸倉を掴まれ、引き寄せられた。
鼻が触れ合いそうな距離に、絵空の顔がある。
「(ちょっとぉおおおおおおおおっっ! あんたの変な知識のせいで、普通の女の子の枠からはずれちゃったじゃないのよぉおおおおおっっ!)」
「(いやいや! まりはまりでおかしいんだけどな! ああいうのに興味を持たないってのもそれはそれで異常なんだよ! つーか、絵空は突っ込み過ぎだ! 特化するにしても振り切れ過ぎてるッ!)」
あんたのせいよ! と、僕のせいにしなければやってられない、みたいな。絵空はもうやけになっていた。ここは反論するよりも共感してあげた方が早く終わりそうだ。
泥酔したおっさんの話を聞くように。ごちゃごちゃと順序立てられていない、言いたいことだけを言うその話に僕は耳を傾け、やっと終わった。
「どうして私って、こんなんになっちゃったんだろ……」
そういう素質があったから。なるようになっただけだと思う。
落ち込む絵空の肩に、ぽんっと手が置かれる。
その手を辿ると、ロコットがいた。ぜえはあ、と息を切らしている。
アポロに誰よりも早く会いたくて、飛ばしてきたのだろう。
「ロコット……」
「そんな絵空をもらってくれそうなのは、こいつしかいないじゃん」
僕を指差した。
え、僕? なにが始まるの?
「それは絵空にしかないリードなんじゃない?」
なんか、ロコットと絵空の間に、友情の光が生まれていた。
なんだか分からない内に解決していたらしい。
良かった良かった。
いつの間にか、隣にいたまりが、ぼそっと呟いた。
「個性的って、悪口かな」
「欠点を良く見せるための鎧とかドレスなんじゃない?」
困った時には個性的だねって言えば、大体が悪くはならない。
まりはなるほど、と頷いた。なんだか純粋を汚している気分だった。
まあ、絵空も最初はそうだったんだけど。良くも悪くも、僕が変えた。
後悔はしていない。たらればに意味はないんだよ?
―― ――
町を出て、まりの記憶を頼りに、目的地へ急ぐ。
ロコットも僕らと一緒に歩きだ。杖があっても最大で二人までしか乗れない。
誰かを置いて行くなら、全員で歩いて行った方がいいだろう。
単独行動は危険過ぎる。
「たぶん、この辺だったと思う……。ここからの景色が目に焼き付いてるから、間違ってはないと思う」
弱気なわりに、確信を得たような言葉選びだ。
町を出て、再び森の中。
学園からはさらに遠くへ向かう方向だ。
ここから見える景色は、大きな目印としては、山しかないのだけど。
この景色くらい、僕らがいる森のどこからでも見えそうだよ?
「バカなの先輩。どこから見ても同じ形の山なんてある?」
アウトラインの話をしているんだけど。そりゃ、細かいところを見れば、同じ景色なんて二つもないけどさ……え? ここから山の形まで見えていたりするの?
「うん。凹凸が間違いない」
「でも綺麗さっぱり。ここにはなにもなさそうだけど?」
ロコットが辺りを見回しながら言う。しかし、それこそが違和感だった。
「……綺麗過ぎる」
絵空が続く。
「ここだけ綺麗に、雑草が生えていない」
ミステリーサークル。
これも、外側から森を見ても、見つけられない一部分。
こうして立ったからこそ、分かるものだった。
「勇架。ここ、音が響く」
アポロがとんっとんっとジャンプ。
着地音が響いてる? ごめん、僕にはまったく分からない。
「そこだ!」
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