第17話 リスクとリターン
「ロコットー! 来たよー!」
「……アポ、ロ?」
「うん。いまそっち行くね」
「ちょ、ちょっと待ってよ! うわうわここ三階なんだけど!?」
「大丈夫大丈夫。ほら、壁のでこぼこを使えば、こうやって、ほら! 登ってくることできた」
「危ないでしょうが!」
「いたっ。ぐーは痛いって」
「アポロが危ないことするからよ! 落ちたらどうするの!?」
「え? 勇架が助けてくれるって。あ、そっか、いまいなかったんだね」
「…………。で、なによ。なんの用なのよ?」
「ロコット、学校に来てよ」
「いやよ。……今更、あのクラスには戻れないわ」
「大丈夫だよ。みんな、優しく迎えてくれるよ。だって、う、」
「嫌だって言ってんでしょ!」
「うむを言わせてくれなかった……」
「アポロもどうして来たのよ。絵空のやつ、通すなって言っておいたのに……」
「絵空を責めないであげて。いま、勇架と戦ってるんだよ」
「戦いね。どうかしら。イチャイチャでもしてんじゃないの?」
「?」
「とにかく! アタシは行く気、ないから。今更戻ったところで、アタシの居場所なんてどこにもないわよ」
「うむと一緒は嫌なの?」
「…………」
「ロコットがいないと、学校、つまんないよ。いつもみたいに世話を焼いてくれないと寂しいよ。凄い魔法を見せてよ。自慢してほしいよ。教えてほしいよ。クラスメイトに合わす顔がないのは、うむも同じなの?」
「違うわよッ! アタシだってアポロと一緒にいたいわよ! でも、アポロはずっとあのディアモンと一緒にいるじゃないの!」
「え、だって、勇架はうむのディアモンで」
「だからなに!? ディアモンだからずっと一緒にいなくちゃいけないの!? 一日中、隣に置いておかないといけないの!? アタシは、アタシは……、アタシに意識を向けてくれないアポロが、嫌いだったのよ!」
「だから勇架を襲ったの? あのメッセージも、ロコットで」
「そうよ。このままじゃ、アポロがあのディアモンに取られちゃうと思ったから。他にやり方が思いつかなかった。あのディアモンになら、なにをしてもいいと思ってたけど、あいつは全然、アポロから離れようとはしなかった」
「うん。勇架はその程度じゃ逃げないもん」
「だからアポロに、あいつを手離させようとした。でも、アポロは全然! 手離そうとしてくれなかった!」
「それはそうだよ。うむにとっては、初めてのディアモンなんだから」
「アタシは、ただアポロが離れていくのが怖くて、気を引こうしていただけなんだ……」
「うんうん」
「アポロが嫌いでしていたわけじゃないのよ……」
「知ってるよ。どうしたの? 他の子に、嫌な事でも言われたの?」
「嫌いじゃなきゃこんなこと、できないって。……心の奥底では、アタシはアポロのこと、嫌いなのかな……?」
「今は、うむのこと嫌い?」
「大好き!」
「じゃあ、そうなんだよ。うむだって、ロコットのことが大好き。いなくなっちゃったら、困っちゃうくらい」
「アポロ……」
「ほんとにバカなんだから。勇架に付きっきりになるわけないよ。勇架はまだこっちの世界に来たばかりだから。そっちにかかりきりになっちゃうのは仕方ないんだよ。ロコットが言ってくれれば、うむはいつでもロコットの方を向くよ?」
「アポロ……ごめんね。またアタシの思い込みで、こんなことに」
「ううん。大丈夫。いつものことだもん」
「……じゃあ、仲直り、してくれる?」
「喧嘩なんてしてないよ?」
「そうだけど。これからも、アタシの友達でい続けてほしいから――」
「それだったら、嫌!」
「うむとロコットは、もう親友」
―― ――
「今頃、あっちはお涙頂戴の、感動的な友情劇でもしているんだろうなあ」
「大の字で倒れてなにを遠い目をしてるのよ。ほらほら、避けなくちゃ当たるわよ?」
真上から火の玉が降ってくる。
すぐに飛び起き、横に前転。今まで僕が寝ていた場所が、火の玉のせいで凹んだ。
あれを喰らっても、僕はなんともないのだけど――、
「でも、それでも痛いんだぞ!?」
「がまんしなさいよ。男の子でしょ?」
「男の子ってなんでこんなに不遇なのだろう……」
その言葉を使えば気合いが入るとでも? ないよ。ないない。
男って言うか、漢って感じの人にしか通用しないっての。僕は昭和じゃないんだから。
「ふと疑問に思ったけど、僕ら、戦う必要あるの?」
アポロがロコットの説得に行った時点で、僕は目的を達成している。
別に、絵空をどかしてまでして、進まなくてもいいのだ。
絵空だって、僕が攻めてこなければ、なにをしなくてもいいのだし。
あ、でもそれだと、絵空はアポロを引き止めに行かなくてはならないのか。
絵空はロコットの復活を願っているのだし、アポロを止めないでいい理由が必要なわけか。
アポロが向かった時点で、ロコットの説得は成功したようなものなんだけどなー。一応、言いつけを破ったのは、僕に邪魔された、という言い訳が欲しいわけで。
僕を
「理由なんてもう分かってそうだし、言わなくてもいいでしょ。それに、私だって勇架の力になりたいんだから。能力、まだ分かっていないんでしょ?」
「まあね」
「だからちょっとしたスパルタで発動させてあげようかなー、って」
絵空が宙に、指で文字を描く。
光る文字が八方向に散る。開いた空間から、火の玉が飛んできた。
「【
火の玉が真っ直ぐに僕へ向かってくる。
僕は全身に力を込めた。
出ろ! 僕の能力!
「って、無理無理っっ!」
鼻先に触れる瞬間に屈む。
火の玉が僕の真後ろで、ふっ、と消えた。
危ねえっ!?
一瞬でも反応が遅れていたら、鼻がなくなってたぞ!
「大丈夫よ。詠唱破棄して手加減してるんだから」
「スパルタって言うわりには、甘くない?」
「即死レベルの魔法を撃ってもいいのよ?」
指先をくるくると回す絵空。
にやりと歪む口元が、冗談に聞こえねー。
「絵空って、どうやって能力が分かったんだ?」
「召喚されたらすぐ分かったわよ? 宙に文字が描けるんだーってね」
「ん? 絵空の能力は、魔法が使えるってわけじゃないんだな?」
絵空は、しまった! みたいな顔をした。
口元を手で押さえ、僕を睨み付ける。いや、今のは自業自得だと思うけど。
「いやいや、詮索しないっての。そうか、すぐ分かったのか。それってたとえば、本能的に知識として理解している、みたいな?」
教えられていないのに、自分の能力がなんなのか分かっている状態のことを言う。
「そういうわけでもないわよ? 知ったのはたまたま。知識では分かっていないけど、思わず体が動いちゃったみたいな感じに近いわね」
そこから色々と可能性を推測して、ロコットと一緒に能力を導き出したってわけ、と、絵空が思い出しながら言う。
僕はその、思わず体が動いちゃった、っていうのが一度しかないんだけど。
あれだけでアポロと一緒に推測しろと? 分かんねーよ、ほぼノーヒントじゃねえか。
「思わずってところが肝よね。私も、死にそうな目に遭った時に能力が発動したから」
ピンチはチャンス! の法則ですか。
一度で得なくちゃ、リスクが大き過ぎないか?
僕、あの一撃をもう一回も喰らいたくないぞ?
「でも、それしか方法がないのなら、するしかないんじゃない?」
それもそうだった。
能力が発動しないとなると、この世界じゃ厳しいだろう。
まず、アポロに申し訳ない。
気にしてなさそうだが、僕が気を遣ってしまう。
なんとか、早急に能力を会得したいものだ。
「……どうする? もう一度、やる?」
絵空がぼそぼそと聞いてくる。
断ってほしい、と言わんばかりの提案だ。
じゃあ言うな、とも思うけど。
僕の悩みを解決したい一心で、悩みに悩んで、提案したのだろう。
あんな態度だから、僕がこれを蹴ったところで、
絵空は怒るどころか喜ぶだろうけど、僕は考える。
ディアモンは頑丈だ。ディアモン同士でなければ、死ぬことはない。
絵空が使っているのは魔法使いの魔法であり、ディアモンの能力ではない。
だけど、絵空が使っているところが、どう判断されるのか。
ディアモン、魔法使いと関係なく、あの時の魔法が、ディアモンをも殺す魔法だったら?
僕は跡形もなく散ることになる。
これは賭けだ。
あの一撃を咄嗟に避けることを考えるよりは。
能力を発動させて防ぐ方が確実だ。
僕は汗を垂らしながら、覚悟を決めた。
震える唇を無理やりに開ける。
「やるよ」
その言葉に、絵空も真剣な眼差しで頷いた。
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