第7話 エリート
異世界。
そして、僕が今いるこの学園は、ディアモン学園と呼ばれている。
魔力をその身に宿す人間だけがなれる【
ディアモン使いは【マスター】と呼ばれているらしい。
魔法使いならば、ディアモン使いでもある。
稀に魔法使いだけどディアモンを召喚できない者もいるらしい。ついさっきまで、アポロはそれに当てはまっていた。しかしそれは才能ではなく、成長途中だから、という壁があったのだろう。だが、これでアポロは魔法使いであり、ディアモン使いになれたわけだ。
ディアモン――信頼する相棒。
召喚された僕達の事を、この世界ではそう呼ぶらしい。
信頼、と言うほど、僕らの扱いが良いとは思えなかったけど。
「召喚魔法、ですか。それを使えば、僕らを呼び出せる、と」
「そうだ。どの時代、どの時間のディアモンが召喚されるかは、完全に運だがな。それに、お前の世界の人物ではないかもしれない。お前の世界とこの世界。世界が二つある時点で、あと一つや二つ増えたところで、驚きはしないだろ?」
確かに。
二つも存在してしまえば、三つ目があるのだって、否定はできない。
そこで疑問が生まれた。
「でも、魔法使いなんですよね? 炎とか、水とか、雷とか、風とか。そういう魔法が使えるなら、僕ら、いりますか?」
どういう用途で僕らを召喚しているのかは知らないけど、魔法が使えるのなら、それで多種多様なことができると思ってしまう。
魔法。
なんでもできてしまう便利な力として考えてしまうのは、フィクションに浸り過ぎている僕だけの考えなのだろうか?
「そう上手く回るわけでもないんだよ」
先生は説明をしながら、僕のためにご飯を作ってくれた。
今は真夜中。夕食にしては遅過ぎるけど、お腹は空いている。ありがたく頂くことにした。
「これ、どうやって作ってるんです?」
気になったので聞いてみた。話が逸れたけど気にしない。
「魔法を使って食材を浮かせたり切ったり焼いたりして作った」
普通に手でもできそうなことだった。もっとさあ、こう、魔法でしかできないようなことしようよ。だからと言って、ぱっ、とは思いつかないけどさあ。
これ、ただ楽をしているだけだ。
魔法を使う感覚が分からないので、使っている方が疲れるって可能性もあるんだけど。
山盛りに積まれた大量の一口サイズの肉。それと白飯。
いいんだけどさ。こっちの食事って、僕らの世界と同じなのか。
「その料理はお前の世界のものだ。というか、絵空から教えてもらった。ちょっとアレンジはしているがな」
ああ、なら納得。
他にも、僕の世界の食べ物がこっちにも伝わっているのだろう。
僕は食べながら、
「僕らって、なんのために召喚されたんですか?」
「理由は、一応、私達が自然界で身を守るため、と言われている」
一応? 言われている? 別の意図がありそうな言い方だ。
「お前は学園から外に出ていないからまだ知らないだろうが、学園から出て坂を下りると、町がある。港町だ。そして、そこから他の町に行くには海を越えたり、森、山を越えたり、自然界へ足を踏み入れる必要がある。そこにいるモンスターに対抗するには、お前らディアモンの力が必要になるんだ」
「そのモンスターは、ディアモンじゃなくて……?」
「どうなんだかな。人型ではない。だからディアモンではない、と言われているが。ドラゴン、って言って通じるだろ?」
僕は頷く。
「ドラゴンに姿を変える事ができるディアモンがいれば、自然界にいるモンスターはディアモンだとも言える」
なるほど。よくある、モンスターは実は人間でした、って展開だね。
「ディアモンなのか単純にこの世界に元々存在するモンスターなのかは分からないが、そいつらは恐ろしく強い。魔法使いの魔法では、対抗できないくらいにな」
「でも、ディアモンなら対抗できるってことですよね? ……魔法の方が強いイメージがあるんですけど」
「魔力が大量にあれば強力な魔法も使えるが、大抵の魔法使いは、一日に魔法を十回程度を使ってしまえば、ガス欠になる。魔力は有限で、補給方法も身近なものでもない。基本的に一日、それ以上に寝るのが一番、効率的だ。それ以外の方法は、寿命を縮めるからあまりおすすめはしないな」
「案外、使い勝手が悪いんですね、魔法って」
「だろ? まあ、扱う者がペース配分とかで調整すればもっとたくさん使えるんだろうけど、やっぱり、一つ一つの威力は各段に落ちる。効率だってな。それでも魔法使いとして、仕事はそれで、こと足りる。だから魔法使いと言えど、自然界に行って、モンスターと戦う程の力を持っているわけじゃないんだよ」
僕が思う魔法使いとはイメージが全然違う。
ゲームの中のイメージなので、言われた側は理不尽だ、と言うだろうけど。
魔力を持たない者よりは便利に生活できるってことか。
そこで、召喚魔法。僕ら、ディアモンの出番というわけか。
「そういうことだ。ディアモンには魔法使いにはない特別な能力が宿っている。それは多種多様。攻撃的なものから日常的なものまで。使い方によって、自然界にいるモンスターと戦う事ができる力を持つ。そして、そんなディアモンを上手く扱えるようになるために、学園という形で設立したのが、ここ、ディアモン学園ってわけだ」
もちろん、ここ以外にもディアモン学園はあるぞ、と付け足してきた。
僕らの役目はこの世界の住人にとっては、結構、重たいものだった。
僕らがいなくなったらどうするの? 回らないだろ、これ。
自然界へ収穫にも行けないし、移動だってまともにできないじゃん。
「ああ、魔法使いだけど、単体で強い奴もいるから、ディアモンがいなかったらなにもできない、ってわけじゃないけどね」
先生は自分を指差し、私は全然強くないよ、と自己紹介。
それはなんとなく分かる。先生は、だからこそ先生をやっているんだと思うし。
もしも強ければ、もっと前線に出ているはずでしょ。
「となると、じゃあディアモン・バトルっていうのは、遊びですか?」
ディアモンは、この世界の人々が生きるために必要なものだ。人間の、自然界のモンスターに向けた、高い威力を発揮する唯一の武器である。
なのでディアモン同士を戦わせる事に、特に意味はないと思う。
そこで負傷して目的を達成できなくなったら本末転倒だ。
本当は、するべきではないのだろう。
「そうだな。まあ、娯楽だ。だが、スポーツでもある。ディアモンバトルにも大会があり、そこで実力を示せば、そのディアモンとマスターは、国から様々な援助がされる。その分、自然界に出かける事も多くなるけどな」
必要ないと断言するものでもないよ、と先生。
なーるほど。ここまで丁寧に説明されれば、理解はできた。
僕の役目も、分かってきた。
僕はアポロのディアモンとして、アポロを守ればいいだけなのか。
「ごちそうさまでした」
そう言って、お皿を先生に渡した。
「自分で洗えよ」
「起き上がれないんですけど……」
ちっ、と舌打ち。
え、いま、舌打ちされた? なんで? どうして?
「それにしても」
先生が食器を運びながら言う。
「普通はこんな話をされたら信じなかったり、すぐに元の世界に帰ろうとするのに、お前はそういう事がないんだな」
どうやら、絵空はかなりの間、信じなかったらしい。
何度も、帰らせて、とお願いしていた。あの時は大変だった、と先生は遠い目をする。
「まあ、僕はこういう世界に憧れていたところがありますから」
「憧れていた?」
「はい。えーと、こういう世界に似たゲームがあるんですよ」
「ゲーム、っていうのは、ああ、ピコピコのやつか?」
なぜそんなおばあちゃんみたいな言い方を。
死んでも言わないけど。言ったら僕が死ぬ。
「そうです。僕はそれが好きで、いつも思っていたんです。ああ、この世界に入れたらいいのになー、って」
「…………」
「だから良かったです。一人なら恐いですけど、絵空もいますし」
それに。
僕は、足元で眠っているアポロを見る。
「僕の主人もいますしね」
「お前はなんだか、下っ端根性が染みついているな。人の上には立てないタイプだ」
よくお分かりで。
僕は誰かの下でせっせと役目を果たすのが似合っているし、得意だ。
そうやって、今まで生きてきた。
いや、誤魔化してきたのか。
現実世界じゃあ、僕はなんの役にも立たないけど、
こんな異世界で、能力があれば、僕は今までの知識を活用できる。
ゲーム好きのオタクをなめるな。厨二病を馬鹿にするな。
こういう状況だったら、フィクションを信じている者の方が強いのだから。
「お前は……確か、勇架、だったよな?」
え、今更、名前?
いや、僕も先生の名前を知らないから、人の事は言えないけどさ。
僕は、はいと頷く。
「勇架。お前とは長い付き合いになりそうだな」
僕も、そうですね、と微笑み、
「簡単に死ぬなよ」
そう言い残し、先生が席をはずした。
僕がいるこの部屋から、出て行ってしまった――。
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