第3話 再会 その1
杖にしがみついて、ガラスを割ってまで入った校舎から庭へ、逆戻り。
芝生が敷き詰められた庭に描かれている、長方形のステージ。
線が引かれているだけの区切りであって、そこに見えない壁があるわけではない。
つまり、僕がこのステージから出ようと思えばどこからでも出られるのだった。
まあ、無理だろうけど。アポロが絶対に許してくれないだろうし。
アポロは僕の真後ろにいる。
がんばれ勇架ー、とぼそっと言われて送り出されたが、なにをするのか知らないんだけど。
教室の騒ぎから休みなくここに来て、しかもステージに立たされたので、結局、説明はまったくなしだった。
先生はステージのちょうど真ん中。ただし、ステージの外に立っている。
やれやれ、とでも言わんばかりの態度だった。というか、止めないのか。
「一勝負でいいのですか? 二人共」
「構わないわ」
「もちのろん」
どちらがどちらの言葉か、一発で分かるな。
言葉の前に声で分かるけどさあ。
「あの、先生」
僕は手を挙げる。質問しようとしたが、
「あ。あなたの質問は受け付けません。立場を考えてください」
「ええっ!?」
扱いが酷い! 質問さえ受け付けてもらえないのか!?
「いや、なにをするかだけでも教えてほしかったんですけど……」
「戦いです」
はい?
「ですから、戦いですよ。あなたのようにこちらの世界に召還された者同士の、戦いです」
戦いって、あの戦い? 殴る蹴るとかそういうの?
ボクシングとかプロレスとか、スポーツのような?
「スポーツ、と考えてもらっていいでしょう。その方が分かりやすいのならば」
「ちょ、僕、そんな事できませんよ!?」
喧嘩なんてしたことがない。しかも召喚された者同士って事は、相手だってここがどこなのか、どういう場所なのか分かっていないはず。戸惑う二人で戦いなんてできっこない。
「安心してください。ロコットさんのディアモンは、この世界の事をよく知っています。一年もロコットさんの世話をしていますから、あなたのように戸惑う段階はとうに越えてますよ」
僕だけが戸惑う不利が出来上がってるじゃねえか!
「安心」
するとアポロがそう呟いた。
「大丈夫、勇架」
不安がる僕を思っての言葉なのだろう。
「うむが勇架を勝たせてあげる」
「落ちこぼれって言われているのに?」
「…………」
「ごめんアポロ! 今のは僕の言い方が悪かった!」
無表情でも怒りマークは忘れずにつけられていた。
絶対地雷だ気にしてるやつだ僕の馬鹿ぁ!
「召喚したばかりだから仕方ないのかもしれないけど、信頼関係がまったくないわね。こんなので本当に勝負になるのかしら」
青髪少女は呆れた様子だった。
成績優秀者ならば、何度も戦いを経験しているのだろう。
それに比べ、アポロは。
落ちこぼれと言われているくらいだから、戦いが得意ってわけでもないのだろう。
しかもやっと召喚が成功したとか。
僕が初めてで、この戦いがアポロのデビュー戦なんじゃないのか?
「あなたのマスターはこれがデビュー戦ですよ。初バトルです」
勝てるビジョンがまったく見えない。あれ? これ、負けるなあ。
「大丈夫」
しかしアポロは迷わない。勝ちを信じて、僕を見つめる。
「勇架には絶対に強い能力が宿っているはず」
「僕頼りなのかよ!」
戦うのは僕で、能力も僕頼りで、アポロは一体なにをするんだ?
「ちょっと待て。……能力?」
「そろそろ始めたいのですが」
「先生っ、能力とはなんですか! 僕は忘れ物でもしたのでしょうか!?」
「ロコットさん、早くディアモンを出してください」
「はーい」
「無視していい質問じゃないでしょお!?」
能力って!? 僕、そんなものを頂いていないですけど!
「うるさいディアモンですね。今、手元にないなら見つけるしかないでしょう。……戦いの中で」
「それはある程度の強さを持つ者がする事です。基礎スペックがゴミカスな僕がそれをすればただの瞬殺で終わります」
「ゴミカスとまで言いますか」
僕のネガティブ思考に先生までもが引いていた。
あれ? 優しい自虐で言ったつもりなんだけど……。
「大丈夫ですよ、死にはしません。というか、死ぬような攻撃だと判断したら、私がなんとかします」
私のディアモンでね、と先生。
死ぬ可能性はあるんだと分かっただけでも恐いよ。
「もういいかしら」
青髪少女が見下すように言う。
扱いが完全に人よりも下なんだよなあ、僕って。
確かにスクールカーストで言えば運動部に入ってちゃらちゃらしている生徒よりは全然、下の方だけどさ。オタクグループの中では中堅だと自負しているけどね。
「出番よ、
青髪少女が制服のポケットからカードを一枚、取り出した。
黒い。カードの裏面には蜘蛛の巣のような模様が描かれている。
それを表にした。下半分には数値が書かれており、上半分にはイラスト……、いや、動いている。イラストが動いたと思ったら、カードが輝く。
眩しいほどではないけど光の塊が現れた。
それがなんなのか、僕には分からなかった。
やがて輝きが失われる。光の塊が、元々の着色を取り戻す。
人の形になったそれは、閉じていたまぶたを持ち上げる。
瞳がこちらを見た。目が合った。
「あれ?」
僕は思わずを声を出していた。
向こうも同じように。
「……勇架?」
「絵空って――あの絵空!?」
どの絵空だ、みたいな顔をされた。
目の前の少女と顔を合わせるのは、半年ぶりくらい、かもしれない。
中学を卒業して以来、会っていなかった、数少ない女子の友人である。
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