第2話 木への転生

さわさわわ……


葉と葉がふれあい、音を奏でる。

優しい風が吹き抜けていく。

陽はさんさんと輝き、木たちを照らす。

土は私達の足を温かく包み、支えてくれる。

小さな小川から流れた水が、遊びながら栄養を届けてくれる。


さわさわわ…さわわ……。


穏やかな森だ。


カサカサッ


「キュ?」


足元の落ち葉から、一匹のリスが顔を出した。手には熟した栗を持っている。

リスは私の隣の木の幹のうろに入り、栗をちまちまと食べだした。ほっぺたが膨らむ。

やがて栗を全部食べ終えると、いそいそと木の洞から出て、また木の実を探し始めた。


ガサガサッ


今度は向こう側から鹿の親子がやってきた。

小鹿がとことこ歩いてきて、私の目の前で足を止めた。そのままそこで足踏みしている。どうやら落ち葉の音が気に入ったようだ。小鹿の親も一緒になって、カサカサ、ガサガサと足踏みを始めた。


カサカサ、ガサガサ、カササッ、ガサガサ。


落ち葉の音を一通り楽しむと、近くの小川へ水を飲みに去っていった。


私はまだまだ木の芽だから落ち葉を落とすこともリスを木の洞に入れることもできない。

だけど、こののどかな森でゆっくり木として生きようと思った。



だけど、それも叶わなかった。


〜5年後〜


――ブィィィィィィィン!


――ガガガガガガ、ドーン。


森に響く騒音。

飛び散る木の粉。

倒れる高い木。


そう。

〔森林伐採〕だ。


かつてはのどかだったこの森も、開拓されて大きなレジャー施設になるというのだ。

木の芽だった頃から5年経って、ちゃんとした若木になったというのに、仲間たちと一緒に伐採されるのだ。


なんて人間は勝手なんだ。


木は、人間や動物たちなどが出す二酸化炭素を、光合成で酸素に変えて出してあげている。それは木が生きるための呼吸のようなものだが、木があることで動物や人間が生きていると言っても過言ではないだろう。木は、動物や人間と共生するためにこうやって呼吸しているのに。


ブィィィィン!


こう考えているうちにも、無惨に仲間は開発のために切られていく。

豊かだった緑も、どんどん減ってゆく。

木は言葉を発することなどできない。

人間に逆らえず、このまま自分も……


ブィィィィィィィィィィン!!


バタン。


2022年10月25日。

秋に染まった私達もりは、

無惨に、人間のために、

この世界から命を落とした。

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