kill count.1

 胸を貫いた触手が肋骨をへし折って肉を抉った。


 骨が軋む音。螺旋を描いて潜り込んだ触手の先端が肺を押し上げ、胃液と鉄錆の味が喉から迫り上がる。


「先、」


 俺の喉から声の代わりにどす黒い血が溢れ出した。触手が体の中で蠢く。

 硬い果実の皮にナイフが沈み込むように、ぷつりと心膜が破れる音がし、痛みが炸裂した。


 ––––"痛みの"ヴァンダの触手は胸を貫き、心の臓まで至った。最早死は免れぬ。


 耳の奥で声がする。俺だけにずっと聞こえている声だ。身体が急速に冷えて固まる。

 全身の熱が胸の穴に向かい、血潮が噴き出した。


「生……」

 俺の手が宙を描き、血がその軌道をなぞる。


 霞む視界の中で、怪物が俺を見下ろしていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る