第3話 月へ。

一時限目


蒼と私は校舎に入った、

クラスメイトが次々とタクシーから降りてくる。


「薫子、おはよう、」


「おはよ、陽葵(ひな)。」


陽葵は仲良しのお友達。


「今日は何の科目を選択するの?」


 高校では全体のカリキュラムが必修以外は選択式で単位が取れれば自由にその日の科目が選べるんだ。


 「今日は月面基地上空のゲートウェイ宇宙ステーションの船内活動職業体験実習にしようかな。」

「じゃあ私も〜、一緒にいこうか。」


 「じゃあイプシロンステーションに空きがあるみたいだからそこで待ち合わせね。」

 「うん、後でね。」


 「蒼はどうするの?」


 「僕は今日は語学演習にトロントに行ってくる、英語苦手だしね。」


 「そうなんだ、じゃあまたお昼休みにね。」


 それぞれ自分にあてがわれたカプセルに乗り込む。

 ここのシートはふわふわで最高なんだよね。そのまま実習サボってお昼寝したいくらい。


 まあ、お昼寝みたいな感覚なんだけどね。


 微かにブーンという振動の後スッと全ての音が消えた。


 気がつくとステーションの格納ポッドの中にいた。


 いたというのは何というか感覚で実際にいるわけじゃないのよ。


 10年ほど前に少しの刺激と信号で脳内の作像機能に直接働きかけてゴーグルなしで自然な視界や感覚を再現できる技術BMI(Brain machine interface)が開発されたんだ。


 トロバスの中にもその初歩的な機構が備わっていて乗車すると素敵な景色や匂いや風まで脳内に直接配信できるんだ。


 イプシロンステーションにあるのは私のアバター、というかモビルアーマー。

質量は500キログラムくらいあるらしいけど無重力だから重さは感じない。



 教官が来られた。



 「申請した人は全員インしたかな?」



 「はーい。全員揃ってます。」



 「そしたら実習に入ろうか、座学で習ったと思うが、見えている視界と実際の動きには2.6secのタイムラグがあるから地球上の感覚との違いを身体で覚えてくれ。」


 教官も実際には地球上にいるから声は遅れない。


 「まずは座ったままでゆっくり右手を左に回してみようか。」



 右手をゆっくり持ち上げて左へっと・・



 「うわー‼」




 右手がすごい勢いで左胸に激突、ぐわしゃ!


と音はしないけど、やっちまった感はある。

 テヘペロ。



 「おいおいモビルアーマー壊すなよ。」


 教官がケラケラ笑ってる。


 手を動かしたつもりなのにすぐに動かないものだからちょっと力入れすぎちゃった。


 陽葵はうまく右手扱ってる。



 天才か、これが天才なのか。


 でも20分ほどで感覚に慣れてきた。

 身体を動かそうと思った1.3second後に実際に動き、それを捉えたモニター画像が頭に届くのがさらに1.3second後。


 なんとなくつかめてきたよ。


 30分もすればもう実際に無重力で移動したり物を移動させたり、実際にそこにいるような感覚になった。


 もう船外活動もできそうな気もするけど学生の間には無理かな。

 将来就職できたらいいけどね。


 一時間ほどして実習が終わったら意識は地球上に帰ってくる。

 帰ってから30分は感覚的なタイムラグを元に戻すために必要なの。


 同じように右手を左の方に振ってみた。右手が動かない。

しばらくして右手が左に動き出すの早すぎる!


 なんだか気持ち悪〜い。


 


 次回の授業編では重要なファクターが登場することとなる。

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